T シューティング(撮影) 映像製作といえば、やっぱりこれがメインということなんでしょう。一般の方にも見えやすい部分というか、でも、実際は時間や物理的な制約も多く、準備段階までが足し算だったとすれば、ここからはどんどん引き算になっていくんですよね。消化試合というと言葉が悪いですが、実際、現場で何かが生み出されていくということは予想以上に少ないものです。まあでも、現場でカメラを回すから作品が出来上がるというのは、まぎれもない事実なのですが…。
11:30、NCWに集合し、武藤起一事務所を大学の助教授室に見立てて撮る。真奈美が不倫相手の八代にレポートを手渡す、1分程度のシーン。カット割りもなしで、3テイクほど撮って15:30過ぎには終了。毎日こうだと天国なのだが…。 その後清水さん、二村さんとともに池袋に出て、トップシーンで真奈美が着用するややオトナっぽいスリップを物色。数軒のランジェリーショップを回って、そこそこ可愛くてオシャレなものを購入。清水さんとはそこで別れ、二村さんとはさらに家電ショップを回り、車中メイクのためのコードレスドライヤーを購入する。 そのころ、三本木さんと今井くんは、明日から使用する劇用車(シビックシャトル)をピックアップ。夕方、私と石神井公園駅で再合流し、そのまま私の事務所に向かい、制作備品等の積み込みを行なう。劇用車と制作車が同じというのも自主映画ぽくていい。 いよいよ明日は上田ロケ。ここからが本番といった感じである。
午後は、生島足島(いくしまたるしま)神社の大鳥居前で真奈美が豊に携帯をかけるシーン(写真2)、そして真奈美が運転しながら父のことを語るシーンをほぼシナリオ順に撮っていく。しかし旅気分はここまで。その後は上田女子短期大学を借りて、テスト中の教室、廊下、校舎の外といった大学シーンの一連を撮る(写真3)。道路関係の撮影が延びたため、現地のエキストラの人たちを1時間近く待たせてしまい、何とも心苦しい限り。でも、みなさんとても協力的で、感謝また感謝であった。16:00過ぎ、ひととおり撮影終了。本日の時点ではまだ撮りこぼしはなしで、少しほっとする。 その後、本日の宿泊先である西洋旅籠館(不思議なネーミングだ…)に向かい、チェックインして少しくつろいだ後、私の部屋で真奈美のナレーションと今日の前半に撮った車内シーンのオンリー(音声)録り(写真4)。19:30、夕食。道路混雑のため、郷田さんの到着は予定より遅れ、ほとんど全員の食事が終わったころの駆け込みとなる。一同改めてビールを注ぎ直して乾杯し、明日の無事を祈るが、テレビから流れてきた「天気は下り坂」との気象予報に、一抹の不安がよぎる。 なお、このホテルには天然温泉「ひな詩の湯」が付帯しており、温泉好きのキャスト、スタッフには好評だったようだが、私にはとてもそんな余力はなく、明日撮るシーンの段取り確認の後、そのまま寝てしまう。どんな状況でも、もう少しその「場」を楽しむ精神的余裕がほしいものだと思うのだが…(後で聞いたところでは、三本木さんも、テレビをつけたまま爆睡してしまい、温泉には入れなかったという。同類なんでしょうか。苦笑)。
ラストの一連が終わったのが12時過ぎ。新幹線で長野入りした以倉さんも撮影隊と合流、一行は午後の芝居場である古アパートに向かって車を走らせるが、どうしたことか、その途中みるみる空が暗くなり、リハーサルを始めた時には、早くも雨がぱらつき始める。「昼間はもつって予報でも言ってたのに!」と頭を抱える私ほか9名。しばしアパート内で様子を見るが、雨はどんどん本降りになってやむ気配もなし。急遽スタッフ会議。橋のたもとのシーンは見切ってアパート外のみ強引に撮るという話にもなるが、前後のつながりが心配との意見が出て却下。日を改めて上田にもう一度来るという案も出たものの、結局これも却下となり、アパート外の一連は、明日室内のみ撮る予定だった宮澤氏アパートの外を使って撮影、橋のたもとについては都内でイメージの似た場所を探し、4月4日に撮影するという方向で話がまとまる。この「恨み雨」のせいで貴重な地方ロケは半日まるまるつぶれ、真奈美が豊と再会するシークエンスと、帰り道の真奈美と達夫の車内シーン、合わせて計5シーンがこぼれてしまった。はるばるやって来た以倉さんはまったく出番なし(メイクまでしたのに…)。一体何のために来てもらったのだろう。もろもろのダメージ大きく、ただただ落ち込む。 日没を待たず一行は上田を引きあげるが、帰りは渋滞がひどく、東京に戻ったのは21:00過ぎといいとこなし。しかし、現場のそんな混乱を知る由もなく、明日のための餃子制作班(増田さん&今西さん)は、予定どおり今井くん宅で餃子の仕込みを進めていたらしい。
![]() 三本木さんと13:00に新宿で合流し、彼の車で、明日のためのラブホテルと、4日のための松井宅周辺ロケハン。先日下見をした谷保のラブホ「P」は内装が上品すぎるため、「いかにもラブホ」と業界的にも評判(?)の大久保の「F」を内見するが、ここの女性従業員の態度が最低最悪で、「窓を開けるな」とか、「壁の色がどうのとうるさく聞くな」とか、いちいちこっちに突っかかってくるため交渉決裂。よって、明日のホテルシーンは、2つとも「P」で撮ることに決定。その後、松井宅に一瞬立ち寄り、三本木さんに部屋を見せる。また、先日撮り損ねた橋のシーンの代替地を、松井家から比較的近い清瀬や保谷の川べりに足を伸ばして探すが、どこも桜が満開でとても使えない。さらに足を伸ばした末、東所沢の裏通りに、あまり人が来ない路地とひなびた神社を見つけ、そこの地主さんに話して使用許可を取る。
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電車のシーンをさくさく終えてロータリーに戻ると、すでに郷田さんも到着。上田ロケの時同様、愛車のアルファロメオでの現場入りであった。今回の大嶋組は、何か車にこだわりを持った人が多いような…。その後、谷戸町の某集合住宅前に移動して、真奈美が帰宅して豊と出くわすシーン、および、部屋から出てきた豊を真奈美が見送るシーンを撮る。昨日は気温が20度くらいまであがったのに今日は雨交じりでせいぜい5、6度。まさに真冬の寒さで吐く息も白く、作品の季節にかなり近い雰囲気での撮影となった。 その後近くのファミレスで昼食(このごろファミレスが多い。何かロケ隊ぽくないなあ)。13:00、松井宅に入り、マンション内のシーンを始める。松井奈々子さんは前にも書いた通り、かつて私の作品に何本も出てくれた人なので、撮影の段取りもわかっており、予想以上にいろいろと現場をサポートしてくれる。まあ、こっちも昔のノリでずいぶん図々しく頼んでしまったのだが…。真奈美と豊が話す朝のシーン(写真中)が16:00過ぎに終わって、ほぼ入れ替わりで母親役の松永麻里さんと、妹役の内藤紅(あかね)さんが現場入り。家族4人が揃うシーンは本編中にはないのだが、折角だからと松井宅のデジカメを借りて一家の集合写真を撮る(写真下)。まあ、こういうのも意外に何かで使えるかも知れないので。引き続き夜の夕食シーンを撮影。またまた消え物オンパレードで、この日は今井くん、二村さん、そして松井さんの3人が炒め物やサラダを作ってくれた。最後に真奈美が達夫に電話をかけているシーンを撮って、19:00過ぎに撮影は終了。 その前あたりから、松井さんと内藤さんが何か奥の部屋でごそごそやってると思っていたら、なんと内藤さんがレギュラーモデルを務めているファッション雑誌「ニコラ」(新潮社)を松井さんの長女が愛読していることがわかり、内藤さんにサインをせがんでいたのだった。いやあ、こういうことってあるんだなあ。 冷たい雨が降り続く中撤収を終え、清水さんとは8日の再会を約して別れる。しかしすでに次の仕事がフィックスしていたメイクの二村さんとは今日でお別れ。彼女も最後まで現場にいられず残念そうであった。その後私と三本木さん、多田さんは、今日借りるはずだった裏路地の地主さんのところに向かい、シーン19の撮影が雨で8日に延期になった旨を伝えに行くが、何と8日は、家の裏の神社でお祭りがあり、神主や氏子が多数車で来てにぎわうため、撮影は難しいという。え、マジっすか? また場所を探さなくちゃいけないの?? あのシーンに関してだけはあまりについていないこと続きで、げんなりして帰路に着く。シーン19は、まさに重苦(じゅうく)だということか。
![]() いろいろと気が重かったが、1、2本目の撮影素材を通し見(初日から3/31の途中まで)。
一応自分の誕生日。でも何ごともなし。先日マンションを貸してくれた松井さんからメールでグリーティングが届いたくらい。昨日にひき続き、近所を歩き回ってロケ場所探し。以前住んでいた狛江の周辺を歩いていたら、駅からすぐのところにある泉龍寺の脇の弁天池が、かなり田舎びていていい雰囲気。ただ、上田に見えるかと言われると自信がないが。帰宅後、3〜5本目の素材の通し見(3/31の後半から4/4まで)。
13:00、三本木さんと合流、明日のためのロケハン開始。初めに、昨日とおとといで私が見つけた2箇所を案内し、次いで、深大寺や玉川上水の方まで足を伸ばす。どこもかしこも桜が散りごろで、新緑は目にまぶしく、まさに春真っ盛りの風景。冬のシーンが撮れそうな場所はなかなか見つからない。たまたま見つけた深大寺近くの諏訪神社は、適度にひなび、また桜がないなど条件はよかったが、駅から遠すぎ、車移動で思いのほか時間を取られる恐れがあるため見送りとなる。結局、昨日見つけた狛江の弁天池で撮影することに決め、三本木さんは帰っていく。しかし予報を見ると、またしても天気は下り坂とのこと。夕方まではぽかぽかしていい天気だったのに、「明日の明け方から午前中にかけて雨が降る」という。まったく、一体どこまで雨に祟られるのか。もし午前中いっぱい雨だとすると、清水さんは午後には次の予定が入っているわけだから、またしても撮影は不可能ということになる。しかし、もうこれ以上予備日は取れないし、周囲の景色もどんどん春めいてくるし…。本当に撮り終えることができるのか?と、ヒジョーに暗い気分で床に就く。
![]() 無事に終わったから書くのだが、今回の作品で一番心がけていたのが「怒声、罵声の飛び交わない、なごやかな現場の実現」だった。どうも映画の撮影というと、よく言えば運動部、悪く言えば軍隊のようなぴりぴりした空気が全体を支配してしまいがちなのだが、今回はそういう空気を追放しようと試みたのである。実は、そんなことを言っている私自身も、現場では知らぬ間に暴君的になってしまい、周囲に八つ当たりして雰囲気を悪くしていることがしばしばあるので、自戒の意味も含めての決意であった。いろいろ思い通りに行かないことが多いのは撮影の宿命みたいなもので、それをいちいち当たり散らしては、場の空気はますます悪くなるし、当然俳優の演技にも影響が出る。いいことは何ひとつないのだ。そして今、7日間の撮影を振り返って、とりあえずその課題がクリアされたことを心から嬉しく思う。もちろん、こちらの希望を汲んでくれた、懐深いスタッフ諸氏の力添えの賜物であろう。今回スタッフを選ぶに当たっては、実はそういうことも考慮に入れているので、キャストの方たちが、この現場には「まったり系」のスタッフが多いと思われたのも、ある意味当然のことなのである。 すべて終わったのが19:00すぎ。三本木さん、今井くんとファミレスで最後の夕食を取って別れる。みなさん、本当にお疲れ様でした。
アップしたというのに、まだ気持ちが高揚しているせいか、5:30くらいに目が覚める。大層しんどい。昨日撮った素材の通し見。また、役者さんたちの事務所やプロデューサー諸氏に、無事アップしたとの報告を入れる。
![]() 19:00、ユナイテッド・シネマ入間にて清水さん主演の「蕨野行」を、吉永くん、以倉さんとともに観覧。上映前に本人の挨拶もあったが、地元ということもあり、抱えきれないくらい多数の花束が差し出されていた。それに感激して、彼女、涙を見せる一幕も。映画の方は、まさに恩地日出夫監督渾身の一作といった感じ。四季折々の自然の情景や村人たちの暮らしのディテールを見るにつけ、家庭のビデオではなく、スクリーンで味わうべき作品だと強く感じた。「おばばよい…」で始まる、しっとりした清水さんのナレーションも心地よく耳に残る。 帰りは吉永くんの車で家まで送ってもらう。彼と私の家が予想外に近いのにはびっくりであった。
![]() 18:00、新宿シアタートップスにて、郷田さん演出の舞台「コックは踊る!」(ひらり、空中分解。[仮])を観覧。舞台は1964年、東京オリンピック開催中の選手村食堂で、私好みの昭和懐かし系。お話しの方も、タイトル通りコックが歌い、踊り、叫び、笑い、泣く、かなりエンタテインメント性に富んだお芝居だったと思う。そして終演後にロビーで会った郷田さんは、うらぶれた真奈美パパの印象をもはや完全にぬぐい去って、精悍な演出家の顔になっていた。そう、現場は確実に過去のものになろうとしているのだ。
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