W ポストプロダクション(仕上げ)
現場が終わっても、映像製作はやっと半分。仕上げのいかんによって、現場的には今イチだった作品でも、新たな命が吹き込まれる場合もあります。もちろん、すでに収録されてしまった映像や音声に手を加えると言っても限界はあるし、クランクアップの時点である程度の出来上がり予想はついてしまうのですが…。とはいえ、何事も仕上げが肝心。特にカット編集によって芝居の「間」を変えると、場面全体の印象ががらりと変わるから不思議です。
この段階では、シナリオに沿って素材をつないだあと、必要に応じて画像を加工したり(色補正、スロー、フェード、O・Lなど)、足りない音を加えたりします。
吉永くん主演の「おにぎり」を観に銀座シネパトスへ。一週間違いで「蕨野行」と「おにぎりが相次いで上映というのも不思議な繋がりである。今日が初日ということで、劇場入り口では山形米で作ったおにぎりが配られていた。上映前の舞台挨拶では吉永くんとヒロインの大貫あんりさん、そして斉藤耕一監督らの姿が。作品の方は、同じ山形ロケでも陰影に富む「蕨野」とは対照的で、ポジティヴに生命を讃えた直球勝負の仕上がりになっていた。
やっとあら編を開始。DVからタイムコード入りでコピーしたVHSを送り側、DVを受け側にして簡易オフライン編集を行なう(写真参照)。ノンリニア編集が当たり前のように普及した昨今、この「オフライン」なんていうのも、そろそろなくなっていくスタイルかも知れない。本編集は三本木さんの自宅PCで行なうことになっているので、もし私もマックを持っていればあら編は自宅で行い、そのデータをハードディスクで彼のところに持ち込めば早いのだが、残念ながらうちのPCはウインドウズで、互換性がない。この辺が面倒くさいところなのである。1日かかって、真奈美が古アパートの前で豊と会うところまで。
引き続きあら編。寝不足で脳味噌ヘロヘロだったが、とりあえずラストまでつなぐ。トータル40分くらいになる。生島足島神社近くの道で撮った、真奈美が豊に電話をかけるシーンと、アパートから出てきた真奈美と達夫に美鈴が謝罪をするシーンの2つをカット。電話のシーンは、単純にドラマのテンポをよくするためだったが、アパート外については、前のシーンで美鈴や豊に対しかなり高テンションで挑発的なことを言って座を立った真奈美が、その直後いきなり冷静になり、美鈴に「自分こそ悪かった」と頭を下げるのが、流れとして見てどうもしっくり来なかったので。こういうのは、シナリオの段階でも撮影現場でも意外に気づかないもので、編集段階で初めてクリアになってきたりするのである。
15:00過ぎ、三本木さんうちに来たる。先日完成のあら編を見せ、色調整や音声など、今後の編集プランを練る。カメラマンとポスプロマンが同じだと、現場の状況もよくわかっているのでこの辺の話が早くてよい。GW明けに一度音ロケ(足りない状況音や効果音を録り足すこと)をすることになる。
10:00、明大前駅にて三本木さんと待ち合わせ、音ロケスタート。しかし、現場の悪夢がふたたびというべきか、出発とともに雨が!!! 一体どこまで雨に祟られれば気がすむのか。小雨に降られつつ、八王子I.C(インター用)、生田緑地(上田用)、三田団地(マンション外用)と場所を変え状況音録り。まあ、マンション前のシーンも小雨混じりだったので、それらしい音が録れたのは収穫だったが…。遅い昼食を取って15:00過ぎ解散。彼にはオフラインのVHSとDV素材を渡し、タイムコードデータに合わせてカットをつないでおいてもらうよう頼む。
10:00〜18:00、三本木宅にて編集。すでにFinal Cut
Pro4のタイムライン上にデータどおりラストまでつながっていたものを頭から見つつ、細かい尺の調整や状況音・効果音の挿入、音質や色の調整などをしていく。音と画を同時にいじれるというのは今さらながらノンリニアは画期的だと思う。旧来のビデオ編集では、まず画を本編ルームで完成させ、その後に音をMAルームで…という具合に分離されており、音を入れる時になって画を直したい時など、ずいぶん苦労した覚えがある。しかし、今ではこういうノンリニア編集スタイルが一般的になっているのだから、それを特別便利とも感じなくなっていくのだろう。たかだか10年で隔世の感がある。
10:00〜18:00、三本木宅にて編集。前日に引き続き、ひとまずラストまで。メインタイトルとエンドロールも作成。これが入ると一気に作品ぽくなるのである。VHSに落としたものを検討用に持ち帰る。
14:00、W大学前にて三本木さんと待ち合わせ、大学内の雑踏音の音録り。前回の音ロケは日曜だったため、大学の音は録れなかったのである。去る3月に、この学校内を案内してくれたNCWの長さんを電話で急遽呼び出し(毎度すんません)、授業が終わったばかりの彼女と3人して休み時間のざわざわした雰囲気音を数パターン、場所を移動しつつ録る。
作品のエンディングテーマで使う曲を求めて、ほぼ1日ネットサーフィン。楽曲のことは、実は撮影前からいろいろと動いてはいたのだが、結果的にフィットするものと巡り会えず今日に至っていたのである。浅野、小村両Pには、今月末までには完成に近いものを見せると約束しているので、もう後がない。
20:00、横浜能見台のライブハウス「ぐりふぉれ屋」に、コヤマナオコさんのライブを聴きに行く。先日ネットサーフィンで見つけたシンガーの方で、サイトで視聴した彼女の歌がとってもよかったため、直接聴いて、あと本人とも会って、話を進めようと考えたのである。初めてお会いするコヤマさんは、豊かな声量の割には案外小柄だったが、でもとてもパワフル&ハートフルな存在感を漂わせていた。ライブ終了後、作品のビデオを手渡し、彼女の「ライムライト」を正式にエンディング曲として使わせてほしいと依頼。
10:00〜18:00、三本木宅にて編集。大学シーンと夕食シーンの状況音足しや細かいレベルの調整。コヤマさんの許可を得てネットからダウンロードした「ライムライト」を、早速エンドロールにはめ込む。尺調整をしたわけでもないのに、ワンコーラスの終わりとタイトル終わりが、奇跡のように一致する。こういうのは実に気持ちがよい。
16:30、新宿ルミネ2Fのユーハイムにてコヤマさんと会い、楽曲の件の最終打ち合わせ。「ライムライト」のマスター音源、および、ドライブシーンでカーステレオから流れているBGMとして使わせてもらう「あぶらかたぶら」のライブ音源をお借りする(右写真は6月3日撮影)。
12:00〜、MPJにてプロデューサーチェック試写。終了後、2人のプロデューサーがコヤマさんのエンディング曲を激賞。いやはや、作品そのものより受けてたような…。こちらも、苦労して探した甲斐があったというもの。その後、三本木さんにチェックは無事終了との報告を入れる。
10:00〜、三本木宅にて最終編集(MA)。劇場上映とDVD化の双方に対応すべく、ステレオのスピーカーとテレビスピーカーの両方で音を確かめつつ、全体の音声レベルを揃えていく。夜までかかって、ひととおりの作業終了。ただ時間の関係で、PCからテープへの戻しは三本木さんにお任せし、明日受け渡しを行なうことにする。
12:30、新宿南口にて三本木さんと会い、完パケ(完成パッケージの略)DVテープ2本を受け取る。これをMPJに納品すれば私の役目も終わりである。ああ、長かったような、短かったような4ヶ月だが、最初は何もないところから作品が生まれるという過程は、何度経験しても興味尽きないものである。
17:30〜、NCWにて関係者を集めての完成試写。キャストは清水、吉永、以倉、松永、酒井の諸氏、スタッフは浅野、小村両Pをはじめ、多田、二村、今井、楽曲提供のコヤマ、そして協力者である露木栄司、武藤、増田、今西、坂元、宮澤、松井の各氏らが参加、また、この作品と同じプロジェクトで監督を務めるジャン・クーミン&鈴木崇の両氏も観に来て下さる。お仕事の都合で、残念ながら三本木さんと郷田さんにはお越しいただけなかったが、久々の再会で、一同忘れかけていた「いくつもの」モードが蘇ったようであった。清水さんは現場同様、二村さんを「姉さん」と呼んで盛りあがっていたし、吉永くんは相変わらずいじられキャラ(?)だったし。時間がある程度経過してから、また作品を通して集合できるっていうのは、演劇にはない「映像ならでは」のお楽しみなのだろう。皆さん、長い間どうもお疲れ様でした!
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