モンスター一族は世界を駆ける!
(「正義のシンボル コンドールマン」1975)

うーん。とうとう「コンドールマン」を語る時が来てしまったのか、というのが正直な今の気持ちです。何だか長くなってしまいそうな予感が。それくらいこの作品には思い入れというか、深い愛着があるのです。
しかしオンエアされた1975年といえば、すでに特撮ドラマは盛りをすぎ、「ライダー」シリーズも「ウルトラ」シリーズも幕を降ろした時期です。一体何人の人がこの作品を記憶しているのだろうか、と思いつつネット検索をしてみたら、あらら、100件以上のサイトがあがってきて、中にはファンクラブらしきものまでありました。うーん、やはり特撮ファンはすごい、と深く頭を垂れた次第です。それらのページに飛ぶと、ストーリーや敵キャラの紹介も克明になされているので、興味のある方は是非ご覧下さい。
前置きが長くなりました。そもそも「コンドールマン」の魅力とは何でしょう。ずばり言ってしまうなら、それは、ひとえに敵側の組織<モンスター一族>の設定および造型デザインの素晴らしさ、その一語に尽きます。百聞は一見にしかず。是非一度ビデオかLDでお確かめ下さい。それが無理なら東映特撮ヒーローものの主題歌全集で、エンディングテーマだけでもいいからご覧下さい。メインの悪キャラが勢揃いで1分近く踊り狂う「ザ・モンスター」はマジでぶったまげます。はっきりいってドラマそのものは大したことありません。まあ、もちろんそれなりには面白いのですが、それも、ストーリーが秀逸というよりも、出てくるモンスターの設定があまりに突き抜けているので、話しまで面白く見えてしまうというか。ああ、こう書いてても、多分読んでる人には 1,000分の1も伝わってないと思うともどかしい!

ゼニクレイジー!(金の亡者で頭が巨大なコイン。腹にはガマ口)
ゴミゴン!(全身がゴミ)
スモッグトン!(殺人スモッグを頭の煙突から吐き出す)
ヘドロンガー!(全身がヘドロで顔が溶けかかっている)

以上の4人(匹?)は、オープニングテーマでもその姿をさらしているので特に有名ですが、他にも大魔王キングモンスターを筆頭に、サタンガメツクやサラマンダー、オイルスネーク、マッドサイエンダー等々、25年を経た今でも脳裏に焼きついて離れません。しかも彼らは、従来の特撮ものみたいに1つのお話に1人ずつ、ちまちま画面に登場するのではなくて、第1話のオープニングから早くもNYのエンパイヤステートビルの一室に勢揃いして、人類抹殺のための会議を開いているんですよ! おまけにそれぞれがかなり国際色豊かな民族衣装を身にまとっており(スモッグトンはソンブレロと肩掛けでメキシコ風、オイルスネークは中東のターバンといった具合)、人類征服計画がかなりワールドワードに進行していることが視覚的に認識できるようになっています。数々の特撮ムック本でも、この設定はインパクト大であったと取り上げられているようですが、たしかにこういう光景は、それまで特撮ものでは登場したことがないと言い切っていいでしょう(これ以降も、第1話で敵キャラが勢揃いする同様の描写はあまりお目にかからない。着ぐるみの制作が間に合わないからだろうと推察されるが…。数少ない例外は1987年放送の「超人機メタルダー」。この作品では第1話で実に40体近い敵のキャラが総登場し、視聴者の度胆を抜いた)。
そして彼らモンスターたちは会社社長や悪徳政治家といった人間に姿を変え(というか、彼らは元々人間の醜い欲望から生まれたという設定なのですが)、食糧の買い占めをしたり、輸送船から食糧を奪って外国に横流ししたりします。この辺のドロドロした描写は社会派ドラマといった趣で、とりわけ金の亡者・ゼニクレイジーが変身した食糧大臣の黒井(演じるは高桐真)は、田中角栄の献金疑惑やロッキード事件に象徴される当時の金権政治家の姿を見事に体現していたと思います。大臣室でワイロの札束を目の前に積まれると、大喜びで手に取り、懐に収めているうちに油断してモンスターの姿に戻ってしまう、なんていうストレートな描写もあり、見ているこちらまで狂喜乱舞したものです。子供といいつつ小学6年ともなると社会で起こっている事件にも多少は関心を持つようになりますから、自民党の金権体質を鋭く皮肉ったこういうドラマは、民間レベルでせこく悪と闘う「ライダー」的な世界観にあきあきしていた当時の私の心を鋭く捕らえたのでした。結局そのゼニクレイジーこと黒井大臣は、国民に向けた記者会見の席上でコンドールマンに正体を見破られ(記者たちの前で、頭に巨大なコインの付いた姿に変わってしまうというのもインパクト大有りでした)、激闘の末倒されるのですが、でも、現実に目を移せば、与党の金権体質ってのはあれから25年経っても全然変わっていません。やっぱり現実はドラマのようにはいかないんでしょうか、と言いたいところですが、実は、この作品はそんな現実の理不尽、普遍的な「悪」の存在というものにまで言及しているのです。
これは、比較的単純な勧善懲悪路線に終始した「ライダー」などでは到底提示できなかった概念で、まさに原作者・川内康範の真骨頂というべきものでしょう。コンドールマンは、自らの超能力を極限まで駆使して数々のモンスターを打ち倒したものの、大魔王キングモンスターの息の根を止めることはできませんでした。キングモンスターはふてぶてしく言い放ちます。
「人間の心から醜い欲望がなくなることは永久にない。とすれば、その欲望から生まれるわれらモンスターも、永遠に滅びることはないのだ」
と。それに対しコンドールマンは明快に答えを返せないのです(ひおあきらの手になるコミック版では、「人間の醜い欲望からモンスターが生まれ続けるように、人間の正義の心から、第2、第3のコンドールマンが生まれることを覚えておけ!」と言わせていますが)。つまり、人間がこの世に存在する限り、正義と悪という二つのアンビバレンスな意識は存在し続け、倦むことなく戦いを続けるものだ、というのが川内が作品に託したメッセージのようなのです。そう言えば同じく彼の原作になる「レインボーマン」でも、死ね死ね団との最終決着は着いておらず、首領のミスターKはまんまと逃げのびています。こういうラストは、子供ごころには非常にすっきりしないものとして映ったのですが、十年ほど前にバリ島を訪ねた折、バロンダンスという向こうの民族舞踊を見る機会があり、その踊りでは善なる神獣バロンと、悪なる神獣ランダが夜通し戦いを繰り広げるのですが、最終的に決着がつかないで終わるという筋書きでした。まさに川内作品のエンディングとまったく同じなのです。「善」と「悪」という二つの概念は、ともに人間の中に本質的に宿っているもので、どちらか一方が他方を打ち負かせるという性質のものではないらしいのです。一方西洋ではこれらに「神」と「悪魔」という具体的な形を与えており、それぞれは絶対善、絶対悪として描かれ、最終的な戦いは神が勝利を収めるというのが聖書などの定説となっています。そういう意味では「コンドールマン」や「レインボーマン」に現れている正義と悪の構図は、きわめて東洋的じゃないかと感心したものでした。話しを戻すと、そういうわけだから、永久に汚職や犯罪はなくならないんだろうな、ってことなんですが。でも、悪がある限り正義は不滅ってのもまた真理なんでしょうね。
いやあ、やっぱりこんなに長くなってしまいました。ちなみに、数あるモンスターの中でも、ゼニクレイジーとサタンガメツクがひときわ輝いているのは、人間の欲望を最も端的に象徴している金にからんだ化物だからだと思います。この二体のおかげで、シリーズの前半は文句なしに楽しめたのですが、後半になると、ゴミゴン、スモッグトン、ヘドロンガーといった、もうすでに「スペクトルマン」あたりでさんざんモチーフにされた、いわゆる公害系のモンスターが話の中心になり、人間の内面に潜む「醜い欲望」が具現化したモンスターがまったく登場しなかったのが惜しまれるところです。しかも予算の都合か、まあたしかに「人間の欲望ある限り」だから仕方ないんだけど、この三体は何度もしつこくよみがえってくるんですよ。それこそ見飽きるくらいに。だったらゼニクレイジーも復活させろって感じなんですけどね(それとも自民党からクレームでも来たのか?)。とはいえ、上記のうちスモッグトンとヘドロンガーの二体については、私が1976年に撮った8ミリ作品「大魔術師対大ペテン師」に特別出演(?)しています。もちろん、東映から着ぐるみを借りたわけではなく、雰囲気だけ似せた手づくりコスチュームなんですが。とはいえ、スモックトンの持つビッグパイプはドラマで使われるもの同様の大きさでちゃんと吹くと煙が出たり、頭の煙突からも煙幕を吐いたりと、かなり凝った作りになっていました。作品に影響されてこういうコスプレもどきをやったなんていうのもこの「コンドールマン」が最後で、そういう意味でも忘れられない作品です。
(2001/02/16)

[作品データ]
「正義のシンボル コンドールマン」
放映日:1975年3月31日〜9月22日(全24話)
放送局:NET(現テレビ朝日系) 放送時間:毎週月曜午後7時半〜8時
制作会社:TTP(東映東京テレビプロ)
原作:川内康範(愛企画センター)
脚本:伊東恒久/山崎晴哉 監督:松島稔/奥中惇夫/伊賀山正光
音楽:鈴木邦彦 造型デザイン:成田マキホ/平田昭吾
出演:佐藤仁哉/多々良純/井上昭文/池田駿介/星美智子/香山リカ/一の瀬玲奈/花巻五郎/飯塚昭三(声)
ゲスト出演:天草四郎/西沢利明/福山象三/中田博久/団巌/小鹿番/潮健児/高桐真/大月ウルフ/二見忠男/山本昌平/伊豆肇ほか

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