今回のタクラマ談話室は、監督・脚本家の佐藤信介氏をゲストにお招きしてお送りします。
渋谷シネマ・アンジェリカで7/1〜28に開催の[AMPJショートフィルムマーケット]のFプログラムで、佐藤監督作品「死亡時刻」と大嶋監督作品「いくつもの、ひとりの朝」が同時に上映。それを記念して、製作の裏話や映画への思いなどを、たっぷりじっくりと語り合いました。






佐藤信介 (映画監督・脚本家)
1970年生まれ。広島県出身。
武蔵野美術大学在学中の93年に監督・脚本を務めた16ミリ短編映画『寮内厳粛(りょうないげんしゅく)』がぴあフィルムフェスティバル94(PFF94)でグランプリを受賞。
その後PFF94の審査員だった市川準監督の『東京夜曲』(97)で脚本家デビュー、『ざわざわ下北沢』(00)、『ひまわり』(00)、『ロックンロールミシン』(02)などの脚本を執筆。その一方ドラマの演出や脚本を精力的に手掛ける。
2001年、『LOVE SONG』で監督メジャー・デビュー。続く監督第2作目『修羅雪姫』では本格アクションを監督。各国の映画祭で公開され、アメリカ、イギリスをはじめとする、20カ国以上で配給が決まる。
近作に『いぬのえいが』(05)、脚本作品に『県庁の星』(06)、『春の雪』(05)など。
現在、新作長編、準備中。

□佐藤信介公式サイト
□アングルピクチャーズ

大嶋 今日はどうぞよろしくお願いします。「ゲストにお招きして」とか言いつつ、実はこっちが佐藤さんのところに押しかけてるんですが。

佐藤 いえ、こちらこそ。大嶋さんのホームページは「タクラマ館」のころから結構見ているんで、声をかけていただいて光栄です。

大嶋 「タクラマ館」のころからってことは……

佐藤 「特撮もののロケ地に行って来ました」みたいなのもしっかり見てますよ。

大嶋 ああ、猿島ね。ああいう脱力系ページまで見てくれてるとは冷や汗もんですな。ええと、佐藤さんとは、1994年のPFFで「寮内厳粛」がグランプリを取った時に知り合って、あれから10年以上経つんですよね。

佐藤 もうそんなになるんですね。

大嶋 ちょうどその年のPFFに「カナカナ」が招待上映されたんで、クロージングパーティか何かで初めてお会いして。まだ二十代半ばなのにずいぶん落ち着いてるなあっていうのが私の第一印象です(笑)。作品のクオリティの高さにも驚いたけど、ああ、この人が撮ったんなら納得だなって。

佐藤 そんなことないと思うんですけど。あの時は次の作品(「月島狂奏」)の編集作業の最中で、くたびれ果ててたんだと思いますよ。

大嶋 ああ、そうだったんですか。「月島〜」といえば、96年にはなかのZEROで「寮内〜」と「月島〜」の2本を提供してもらって一緒に上映会をやったり、いろいろ行き来があったんですが、ここ最近はしばらくご無沙汰で、今回のショートフィルムマーケットで再会を果たしたっていう感じですよね。

佐藤 そうですね。94年のPFFで同期入選している小村幸司さんが今回のプロデューサーっていうのも縁だなあって思いますね。僕は去年、すでに何本か完成しているAMPJ作品の試写が品川であった時に観に行って、「いくつもの、ひとりの朝」も拝見して、その時に大嶋さんとは久々に、それからコヤマナオコさんとは初めてお会いして……

大嶋 渋谷まで3人で一緒に帰ったよね。それがきっかけでコヤマさんが「死亡時刻」のオルゴール曲を手がけることになるわけですが……。さて、それでは、佐藤さんの最新作「死亡時刻」についてなんですけど、これは、ホントできたてほやほやなんですよね。一緒のプログラムで上映される僕の「いくつもの〜」はもう2年も前の作品なのに、「死亡時刻」は、公開の1週間前(6月25日)にはまだ撮影の真っ最中だったという……。ほとんど映画黄金時代の、「渡り鳥シリーズ」とかああいうノリですね。

佐藤 いやあ、これは、かなりスリリングでしたね。

大嶋 撮影終了後は、休む間もなくすぐ編集ですよね。

佐藤 そうですね、基本的な編集は自宅のPCで出来るようにしたんで、素材のHDDを半分にわけて、前半のカット編集を僕が自宅でやっている時に、仕上げの三本木久城さん(撮影から仕上げまでをこなすマルチな方。「いくつもの〜」にも撮影等で参加)が後半の素材を並べる、という感じで。で、僕が前半を終えた時点でHDDを交換して、次は後半のカット編、というような段取りで……。

大嶋 そうすると、最終的な仕上げ作業はどのくらい?

佐藤 三本木さんのハウススタジオで作業したのは2日だけですね、あとは電話とメールのやり取りで。それ以外には、さっき言ったHDDの交換のために、池袋の改札で一瞬会ったくらいですね。

大嶋 コヤマさんの音楽もデータで送ってもらってるんですよね。

佐藤 そうですね、MP3で。最終的にはCD−Rの正式な音データと差し替えましたけど。

大嶋 いやあ、すごい。こういう仕上げ方って、10年前は絶対考えられなかったよねえ。

佐藤 そうですねえ、それで、最終的にDVテープに落としたのが最初の上映がある7月2日の午前中で、そのあと、あわてて映画館に持っていったんです。

大嶋 上映当日、監督自らテープを……。それもすごい(絶句)。


■謎を「追う」と「解く」は別物


大嶋 今回の作品は、最初から最後までずっと部屋の中という、かなり密閉性の高いお話なんですが、この辺の着想はどういうところから?

佐藤 もともと、ある場所を限定して話を書くのが好きなんですね、その方がやりやすいというか。「月島狂奏」も月島という土地から一歩も出ない話でしたし。それと、「死亡〜」は時間飛びもほとんどないんです。ドラマの中の時間が30分ちょっとで、実際の作品も……

大嶋 ああ、なるほど。そう言われてみれば。

佐藤 ある枠を決めて、その枠の中で、っていうのは、制約がある反面、やりやすいですよね。

大嶋 やりやすいっていうのは、撮影においても?

佐藤 そうですね。例えば、ワンシチュエーションであれば、移動もしなくていいし、衣裳変えも必要ない、とか。

大嶋 ああ、それは、わかる。

佐藤 もともと今回は、最初から部屋に限定した話を作ろうと思ってたわけではなくて、最初の方の台本だと外のシーンもあったんですけど、書き直していくうちに、あ、部屋から出なくていいじゃん、これ、って感じになって。時間や場所の変化も、必要がないのであれば、やらなくていいだろうって判断で。

大嶋 そうすると、例えば「ドグマ」みたいな最初からの誓いというか、決め事ではなかったんですね。

佐藤 ええ。今回自分がやりたかったのは、不倫中の人妻と相手の男が、ダンナの殺害を企てる……っていう、「ブラッドシンプル」とか「郵便配達は二度ベルを鳴らす」みたいな話です。ああ、「死んでもいい」もそういう感じでしたね。


「死亡時刻」


大嶋 なるほど。まあ、あまりストーリーをお聞きしてしまうとネタバレになりそうなんで程ほどにしますけど、学生時代の「寮内〜」「月島〜」「正門前行」といった渋めの作品から知っている者としてお聞きしたいのは、佐藤信介という監督の方向性って一体どういう感じなんだろう……ってことです。釈由美子さん主演の「修羅雪姫」ではかなりぶっ飛んでたものを作ってたけど、今回はあれともおもむきが違うし……。正直ちょっととらえどころがないという感じなんですが。

佐藤 うーん。僕としてはその答えはきわめて単純でして。いつもそうなんですが、僕が撮りたいと思うものを撮っているにすぎないってことです。

大嶋 え、そうなの?

佐藤 だから一貫性がないって思う人もいらっしゃるようなんですが、でも、僕の中の僕らしいものっていうのは昔からあまり変わってないんです。例えば「寮内〜」は頭のよくなる薬を飲んでいる隣人がいるらしい、「月島〜」では、ガンの疑いを持たれ、父親が突然、いなくなる、「正門〜」は卒業制作の金のリンゴが盗まれる……、要するに、どれも、ちょっと日常を逸脱した事件というか、普通の生活をベースにしながら、何かが少し変わっている、っていう話なんですよ。

大嶋 ああ、なるほど。

佐藤 だから「結婚式の朝、お父さんと娘が何かを話す」というような、たとえば小津の作品みたいな、日常をそのまま描いたものじゃなくて、どっか違うもの、どっか逸脱したもの、っていうのがやりたい世界なんですよね。まあ、「修羅雪姫」は日常からはかなり遠いけれど。

大嶋 あれは、日常から、ていうより原作からもかなり遠かったですね(笑)。

佐藤 本当はあのくらい、思い切り逸脱した話をやりたいんですけどね。でも、いろいろな制約があるし、特に、初期の作品のころは学生だし、出来ないことの方が多かったわけですよ。それで、日常をベースにしつつ、「逸脱」を表現できないかって、わりと真剣にいろいろ考えまして。そうして、考えたら意外に面白かったんですね、そういうのが。まあ、自分にとって、ですけど。まるで逸脱してるんじゃなくて、でも、ひとつだけネジがはずれたかなんかで、今日1日が何かへんな1日になったぞ、みたいな……。実は今回の作品もその延長線上にある気がしてるんですよ。

大嶋 なるほどねえ、そういう意味で、一貫性があると。

佐藤 ええ。これまでの延長線上に今があると思ってますし、きわめてやりたい線が明確に見えてきている自分がいるって感じです。今回やってよかったと思うのは、出来上がったものを見て、やりたい線が出ていると思ったんですね。それをはっきりさせる意味でもやってよかったと思います。

大嶋 僕が今回まず思ったのは、「ああ、佐藤さんがこういう色っぽい描写をするんだ」ってことです。しょっぱなの下着を身につけるシーンとか。そういうのって、今までないじゃないですか。

佐藤 たしかに、自分でも撮ってて新鮮な感じはしましたね。決して、今までタブーにしてきたわけじゃないんですが。

大嶋 デビュー作の「寮内〜」からして、モノクロのせいもあるんだろうけど、年齢に似合わず枯れた作風?(笑)というか、とにかくこれまでセックスを感じる描写がなかったでしょ。「修羅雪〜」の2人も最後までプラトニックな感じだったし。

佐藤 たしかにねえ。「正門〜」の時も、恋人同士が出てくるんだけど、「あの部屋で2人でセックスしているような気がしない」って女優さんに言われましたね。

大嶋 それはやっぱり、意図的に排除しているわけ?

佐藤 そうですねえ、ドラえもん的な世界観ていうか、性的なものが隠蔽されている、乾いた感じは狙ってたかも知れません。「正門〜」に関しては、学生生活の、ある種寓話的な世界を作りたいっていうのがありましたね。

大嶋 美大って、実際ああいうドラえもん的な雰囲気なんですか?

佐藤 いや、あれはあくまで僕の中のイメージですけど。

大嶋 でも、今考えると、「正門〜」も探偵物というか、ミステリー的ですよね。金のリンゴがなくなって、それを素人探偵が探していく。まさにドラマの王道ですよね、何かを探し求めるっていうのは。

佐藤 たしかに「謎を追っていく話」っていうのは好きなんですけど、でも、ミステリーにありがちな、殺人トリックの謎を暴くとか、「犯人はお前だ!」っていうのはそれほど好きではないんです。

大嶋 えー? 僕は「犯人は誰だ」ものってすごく好きでしたけど。小学校のころなんかホームズとかルパンとか、そんなのばっか読んでましたが。そもそも「謎を追う話」と「謎を解く話」ってどう違うんです?

佐藤 「謎を追う話」っていうのは、謎が解けなくてもいいんですよ。謎が謎のまま放置されているっていうか。それで、謎は解けてないのに、最初の謎がどうでもよくなってる、なんていうのが好きですね。謎が解けたカタルシスより、謎を追う過程が面白いんです。

大嶋 解くことにではなく、追うことに意義がある……。何か人生みたいですね。

佐藤 ははは。たしかに。

大嶋 でも、「正門〜」は、一応リンゴが見つかって、犯人もわかって終わっていますよね。

佐藤 それはそうなんですけど、リンゴが見つかったと言って物語の結論が出たわけではないんですよ。

大嶋 ああ、なるほどね。それと、今の話で思い出したんだけど、「修羅雪〜」のラストも、かなり余韻を持たせてますよね。

佐藤 あれは、いろんな終わらせ方を相当考えて、でも、最終的にあんまり全部きっちり終わらない方が余韻が残っていいだろうってことで。


■画コンテは描く、描かない?


大嶋 今回の短編企画では、それぞれの監督が工夫を凝らして限られた条件の中でがんばっていると思うんですが、佐藤作品は、なんとご自分のマンションをそのままドラマの舞台として使っているという……。

佐藤 最初は一軒家の話だったんですけど、探すのが大変ぽくて、それでマンションに書き換えて、で、実際にある自分の部屋の間取りを参考して書いてたら、結局ここを使うしかなくなったという感じで……

大嶋 私も小さい規模の作品は何本か自分の部屋を使ってますけど、一番いいのは、誰よりも寝坊できるってことですよね。

佐藤 あはははは(大うけ)

大嶋 え、佐藤さんはそういう理由じゃないんですか? でも現場に出かけなくていいから楽ですよね。インドア派の私はすぐそういう発想をしてしまうんですが。

佐藤 いやあ、そんないいもんではないですよ。だって、バスルームを物置にしちゃうから風呂は使えないし……。寝るところも、現場を保存しなくちゃいけないから、あいた場所にパイプ状に布団を敷いて寝るとか……。気持ちもさっぱりしないし、終わったあとの後遺症たるや何とも言いがたいですよ。最近ようやく少し片付いて、だいぶ部屋らしくなったけど……

大嶋 たしかに、佐藤さんの場合は部屋の作り込みもいろいろあったみたいですからね。ちなみに撮影は何日くらい?

佐藤 正味5日でした。最後の2日は、みんな一回は家に帰ったけど、数時間後にまたここに来て……。たしかタクシーで朝方の3時4時に帰ってもらって、また7時8時には来てもらって撮影を再開して……

大嶋 それ、帰んない方がよかったんじゃ……

佐藤 でもみんな、お風呂くらい入ってさっぱりしたかったと思います。


演出中の佐藤氏


大嶋 なるほど。画コンテは描いたんですか?

佐藤 そうですね、今回は全部画コンテがありました。かなりカット数が多かったんで。壁にコンテを貼り出して、撮り終わったら、それを消して、みたいなことをやって士気を高めてました。

大嶋 僕はほとんどコンテを描かないので……

佐藤 大嶋さんは全然描かれないんですか。

大嶋 時間の制約がある場所の撮影だと、あらかじめ画を決めておかないと撮りきれないのでやむを得ず描きますけど、それも滅多にないですね。

佐藤 そうすると、カット割りはどうやって?

大嶋 たいていは、そのシーンの俳優さんの芝居(リハーサル)を頭から尻まで通しで2度くらい見てから、その後少し時間をもらって、現場で台本に線を引く(割りを入れる)。その間俳優さんはお菓子食べたり、煙草を一服したりとか……

佐藤 え、そういう風にやってるんですか。じゃあ、事前に画を考えたりは……

大嶋 一切なし。現場に入って、俳優さんに動いてもらうのを見つつ、ああ、ここはこの人のアップで行こう、で、次は引きを入れて……、とか考えるわけです。「いくつもの〜」の後半の、4人で餃子を食べるシーンは結構長いので、ホントは事前にコンテを描こうと思ってたんだけど、何かいろいろ雑用が多くて、結局現場で割りました。


「いくつもの、ひとりの朝」


佐藤 ああ、でも、そのやり方の方が俳優さんの動きは自然になりますよね。自分も、こういうやり方してるといろいろ矛盾を感じたりはするんです。

大嶋 でも、コンテを描いてても、現場で変更することもあるでしょう。

佐藤 たしかに、動きを見て変える時もありますよ。でも、コンテを描いちゃうと、どうしても、「その通り動いて欲しいな」って気分になっちゃうんですよ。「初めに演技ありき」っていう方が自然だし、その方が僕も自由になれるはずなんだけど、でもどっかで自分の中にブレーキがかかって、「やっぱりこのシーンの最後はこの画で決めたい」とか。

大嶋 いやあ、それは正しいこだわりだと思いますよ。だって、映画って「画」で見せるものじゃないですか、当たり前だけど。このカットでは何を見せたいのか、それはたとえば鳩時計だったり、主人公の顔だったり……。そういう見せたいものをワンカットワンカット積み上げていくことで映画は映画になると思うんですよ。私は流れで撮りすぎちゃっているから、大切なものを見せていないことがあったりするんですよね。

佐藤 例えば?

大嶋 例えば、さっきの餃子を食べるシーンで言えば、わざわざスタッフが手作りで皮から餃子を作ってくれたわけですよ。中国の人が作ったっていう設定だから、形にも気を配って、なかなかの労作だったんですよ。でも、画面を見ると、餃子の寄りとかアップがないから、そういうのが全然わからない。事前にコンテを描いていたら、こういうことはないと思うんですよね。今回アンジェリカで佐藤さんの「死亡時刻」を見て、やっぱりワンカットごとの力っていうか、密度を感じましたよ。「ああ、映画だなあ」って。

佐藤 いやあ、そうですか。それは多分、撮影監督の河津太郎くん(現在公開中の「日本沈没」でも撮影監督を担当)の力もあると思うんです。彼は画コンテを見て、こういう撮り方もあるんじゃないかって、いろいろとアイデアを積極的に出してくれますし。時には、僕が欲しい以上の画を決めてくれたりする。芝居の流れでこうしたいああしたい、っていうのもすんなり理解してくれて。

大嶋 ああ、河津さんとのコンビは長いですよねえ。大学の時からでしょう?

佐藤 ええ。「修羅雪姫」のあと、一緒にやってなかった時期もあったんですけど、去年、また久々に組んでみたら、やっぱり一番しっくり来たという感じです。お互いのサークルが以前より近づいているっていうか。

大嶋 夫婦も10年一緒にいれば、顔も似てくるっていうけど、まさに河津さんは佐藤さんの女房役って感じですね。でも、話を戻すと、そういう話し合いも、まずコンテがあるからこそ出来るわけですよね。今漠然と思ったのは、コンテが必要かどうかは、作品の世界観ていうか、作品の目指すところによるんじゃないかっていうこと。ワンカットワンカットに意味を持たせて見せていく映画もあれば、その場の雰囲気を全体の流れで見せる映画もある。僕の場合は圧倒的に全体の流れ重視だからコンテが後回しになるんだけど、佐藤さんの映画は、ワンカットごとの積み上げで世界を構築していくわけだから、はじめにコンテありきという発想になるんじゃないかな。


「いくつもの〜」の撮影風景


佐藤 そうですね。大嶋さんの作品をいろいろ見ても、ひとつのカットに過剰に思い入れていないのは感じますよね。

大嶋 いろいろって、そんなに何本も見てくれてましたっけ。

佐藤 ええ、劇場公開作はもちろん、それ以外のDV作品も……。パーソナルシリーズもだいたい見てます。「ウイークエンド・ピース」は好きな1本ですね。

大嶋 え、ホントに? でも何でまた。

佐藤 いや、結構好きで観てるんですよ。現在を生きる監督さんで、作品を連綿と見続いている作家さんはそんなにいないんですけど。何か観てしまう魅力にあふれている、僕にとっては。

大嶋 でも、僕の作品はプロの俳優さんじゃない人に出てもらってるものも多いし、自分で言うのもなんだけど、ヘタウマみたいなのばっかなんだけど。

佐藤 あの力の抜け方がいいんです。まず、演技のレベルはさておき、出てる人のキャラクターとか表情が、いつも、大嶋さんの求めている世界観にきっちり収まってるんですよ。すごくうまい人が出ていることよりそっちのが大事じゃないかなって。

大嶋 そういうもんなんでしょうか。

佐藤 作品の世界観から、キャラ、物語、映画そのものも、はみ出してない。僕もそれを目指したいんですよ。でも、いろいろ難しいところもあり……

大嶋 パーソナルシリーズとか、今じゃ自分でも見たくないのばっかですけど。技術的にも問題が多くて。

佐藤 そもそもあのシリーズってどういうきっかけで?

大嶋 多少のお色気シーンがあれば、あとは好きに撮っていいってビデオ会社に言われたんで……。でも、監督から撮影から録音から全部自分一人でやって、そういうのは三十代までならともかく、この年になるといい加減辛いですよね。それで、一応打ち止めにしたという。

佐藤 そうなんですか。でも、「いくつもの〜」はあのシリーズの流れをふまえてる作品だと思いました。裸も出ないし、手持ち撮影もほとんどない、撮り方の方法論は大きく違うんだけど、これがまた、大嶋拓作品から少しもはみ出ていない、ていうのがすごいなと。とにかく「いくつもの〜」は大いに期待して試写を見に行き、まったく期待にたがうことがなかった。好きな一本です。

大嶋 いやいや、それは芸域が狭いんですよ。引き出しが極端に少ないというか…。どの作品も大嶋ワールドだとか言われるのは、それは私がおんなじような話ばかり作ってるからだと思うんですよ。

佐藤 でも、作家ってそういうもんだと思いますよ。自分は何でこんなことにこだわるんだろうと思いつつ、それに固執して、作り続けるっていう……

大嶋 それでいいんですかね。

佐藤 きっとそれは、見えないこだわりだと思うんですよ。僕は、「大嶋さんは多分ここにこだわって作ってるんだろうな」と思ってても、大嶋さん自身のこだわりは、僕の考えてるのとは違うのかも知れないし。

大嶋 ああ、それはそうですね。僕もさっき、佐藤さんのこだわってる一貫しているものって何ですかって、思わず聞いてしまったけど、人が思っているのと自分の思いは違いますよね。逆に人に指摘されて自分の作品傾向に気がつくってこともあるだろうけど……

佐藤 結局、自分がこだわるものを追求していくしかないし、作り手って知らないうちにそうやっていると思うんですよね。

大嶋 ああ、たしかに。


夜は更け、歓談は続く…


■映画製作の原点にあるものは…


大嶋 最後にお聞きしますけど、佐藤さんにとって映画製作の「原点」ていうのは? 

佐藤 僕は1970年生まれでもろスピルバーグ世代なもんで、スピルバーグ作品の影響ってのが一番大きいんですね。だから、映画の中心テーマっていうのは「興奮」と「感動」なんです。全体感というより、一瞬一瞬のハラハラドキドキっていうのかな。

大嶋 ああ、なるほど。さっき、ワンカットワンカットの積み重ねっていう話をしたけど、原点がスピルバーグと言われると納得ですね。

佐藤 大嶋さんは?

大嶋 僕はここのホームページでも、他のプロフィールでも、小学校の時「仮面ライダー」の撮影所を見学したのがきっかけ、ってことにしてるんですけど、実はその辺も結構怪しくて……

佐藤 今作ってる作品て、特撮ものと違いますもんね。

大嶋 そうなんですよね、分裂してるんです。でも、多分、今の自分とか、その周辺の日常というか、そういうのを「記録」しておきたいってのはすごくあるんです。今は日常で当たり前だと思ってることでも、10年経つとすっかり変わってるでしょ。それこそ、映像の作り方も激しく変わってるし。そういう日常と、その中に生きる自分の感情、みたいなものを物語にしていけたらと。

佐藤 「記録」するっていうことについては、僕もすごく意識するところがあって、描いた画コンテにしても、メモにしても、ファイリングしたいっていう欲求はかなり強いんです。きちんと形を残すっていうか……

大嶋 ああ、それは、すごくありますね。僕なんかも、作品にまつわるメモとか、10年20年経ってもほんと捨てられない。ちなみに、今回の「死亡時刻」はほぼ実時間で場所の移動もない、あのまま一幕劇にでもできそうなお話なんですが、佐藤さん、今後演劇をご自分で手がける予定はないんですか?

佐藤 演劇はですね、観るのは大好きだし興味もあるんですけど、ただひとつ、形が残らないっていうのが……

大嶋 ああ、やっぱりそうなんだ。

佐藤 大変な時間をかけて作ってるのに、その場で花火みたいに消えてしまうのが、どうしても……

大嶋 そうですね、僕も演劇は1回だけやりましたが、それ以上に踏み込めないのはまったく同じ理由です。でも、演劇の畑の人は、「芝居はあとに残らない潔さがいいんだ」みたいに言いますけど……。やっぱり、佐藤さんも僕もお互い映像を作るべくして作ってるってことなんでしょうね。では、今後の活動予定と「死亡時刻」のアピールなどを。

佐藤 これからも、監督としての作品作りと、あと、シナリオの仕事なども、しばらくは並行的にやっていこうかなと思っています。「死亡時刻」も、自分としてはかなりいろいろと試みてみた作品なので、お楽しみいただければと思います。

大嶋 今日は長い時間どうもありがとうございました。

佐藤 ありがとうございました。


□「死亡時刻」公式ページ
□「いくつもの、ひとりの朝」のページ



「死亡時刻」の撮影場所にもなった佐藤さんのマンションにお邪魔したのが夕方5時半。その後場所を近所の居酒屋に移し、歓談はえんえん12時過ぎまで続きました。佐藤さんが私と同じひとりっ子だと初めて知ったり、いろいろ発見の多い、楽しいひとときでした。本当はここには書ききれないくらいたくさんの話をしたのですが、それはまた別の機会に。映画作家として、そしてシナリオ作家として、これからもますますいい仕事をしていって下さい!


アーカイブへ
トップページへ