6年ほど前から、NCW(ニューシネマワークショップ)という映画の学校に、たまに話をしに行っています。来ているのはほとんどが十代後半から二十代の、映像制作を夢見る純真(?)な若者たちで、これまでにもいろいろな出会いがありました。「火星のわが家」ではちわきまゆみさんの旦那役と鈴木重子さんの友人役がともに受講者(当然素人)ですし、「2000年のひとり寝」はもっとすごくてヒロイン以外はすべて当時のメンバー、「湿った指」の主役の男女や助監督も…、といった具合で、特にノンプロの人を登場人物に起用することの多い私の作品においては、NCWはまたとない新人発掘の場となっているのです。でも、彼らは別に役者志望ではないわけで、私は大助かりだけど、彼らのためにはあまり貢献できていないよなあ、と少なからず後ろめたさを感じていたのも事実です。

そして今回、またまたそのNCWメンバーたちに出演してもらう機会を得ました。タイトルは「粉雪の布団」。昨日編集の小直しが終わったところで、まさに完成したてのほやほやです。
話しの発端は、NCWに映像トレーニングコースというのがありまして、これはメンバー全員が10分程度の短編をDVで撮るというコースなのですが、それの企画書講評をやった際、「ハルノユキ」という作品にすごく印象的な雪のシーンがあって、それを読んでいるうち、自分も
雪の出てくる作品を無性に撮りたくなったというわけです。もともと雪は大好きなのですが、なぜか今まで自分の作品に登場したことはほとんどありませんでした(多分寒がりなので、冬は動きたくないのでしょう)。
「ハルノユキ」は、兄への想いを断ち切れない妹が、かまくらの中で兄とひと夜を明かした後、旅立ちを決意する、というリリカルなお話で、同じように近親者への過剰な想いを引きずった作品に「懸命の血」というのがありました。2つの作品は作者の抱えている内面の問題を何とか映像に昇華しようという切羽詰まった感じが共通しており、この人たちはよき話し相手になるのではないかという気がしました。それまでは大して親しくもなかったらしいのですが、「君たちの作品はテーマに共通する部分があるよね」と私が指摘したのがきっかけで割と意気投合したようで、楽しそうに語らっている2人を見ているうち、「あ、折角だから自分の作品はこの子たちに出てもらおう」と考えついたのです。かくして、「粉雪の布団」のヒロインは「ハルノユキ」の作者である増田佳恵さんと、「懸命の血」の作者の中屋実奈子さんという2人の女の子に決定しました。
2人の故郷が青森と高知で、キャラクターが結構対照的なのもすべてシナリオに入れ込んであります。一見すると仲むつまじい女の子同士の、思い入れの強すぎる友情がもたらす悲劇を描いてみました。

 
北と南から出てきて東京で出会った2人(実話)

撮影は、年明けから始まる2人の撮影実習に支障がないよう、
2002年の暮れも押し迫った12月27日と決めました。朝の7時に石神井公園で待ち合わせ、内田龍くん(「ナイト・フレエム」の主人公です)の車で長野県の古間に向かったのですが、行った日はとにかく大変な吹雪で、撮っているうちにみるみる雪が深くなり、撮影を続行したら本当に遭難するんじゃないかというくらいの荒天でした。雪野原に横たわる2人の上に、しんしんと粉雪が舞い落ちる、というイメージを考えていたのに、これじゃあ「ドカ雪の布団」です。話にならないということで引き上げ、年が明けて間もない2003年1月6日にリベンジを行ないました。この日は、いつもポストプロでお世話になってる三本木久城さんに車を出してもらい、どうにか撮り終えたのですが、今度は上天気すぎて、夕方になってもちっとも粉雪が降ってきません。どうもあまり天候には恵まれなかったようです。
雪の撮影は慣れないせいもあり、とにかく大変でした。手はかじかんでカメラの操作は思うようにいかないし、バッテリーの減りは早いし…。でも、もっと悲惨だったのは女の子たちで、私や三本木さんよりはるかに軽装なのに、雪の中で長い時間横になっていなくてはならず、体が芯から冷え切っているのは外見にも明らかでした。それでも文句ひとつ言わず、最後まで本当によくがんばってくれたのでした。さすがNCW魂、もといクリエイター魂、何かあるとすぐに文句をたれるそこらのハンパ女優(誰?)なんかよりよっぽど根性があります。でも、大変といいつつ結構楽しかったんですけどね。すべてを覆い隠す雪の白さも、手に触れるさらさらした感触も、例えようのないくらい素敵で、寒さを忘れさせる恍惚感に溢れていたといいますか。
そんなこんなでどうにか撮影も終わり、2人はそれぞれ自分の作品の準備に取りかかったというわけです。



お昼前に長野に着いてみれば上天気。雪合戦のシーンはいい具合だったが(左)、次第に日が傾き…(右)


本当に眠気が襲ってきてヤバかったという2人(左)。でも撮影は非情に続けられたのであった(右)


実は先週、こっちよりもひと足先に完成した「ハルノユキ」を観る機会に恵まれたのですが、正直、負けた、のひと言でした。撮影当日はシナリオに描かれた条件にぴったり合った天候だったそうで(1日目が吹雪で2日目が晴天)、作品世界が雪景色を背景に見事に成立しているのです。自然を味方につけると、ここまで人を魅了する映像が出来上がるんだ、と、改めて認識させられました(もちろん演出や撮影の力も大きいのですが)。増田さん本人は奥ゆかしく、「運がよかったから」と言いますが、運を呼び込むのも実力のうち。彼女自身事前に何度も現場まで足を運び、巨大なかまくらをあらかじめ作っておくなどかなり周到な準備をしており、それが実を結んだのでしょう。しかしながら、
雪の撮影は甘くみない方がいい、という戒めは私の現場から体で学んだことのようで、だとしたら、私も今回ようやく、後輩の作品作りにささやかながら貢献できたことになります。「ハルノユキ」から「粉雪の布団」のアイデアが生まれ、「粉雪〜」の現場での体験が「ハルノ〜」に活かされる。まさにコラボレーションというにふさわしい経験だったと思っています(どうでもいいんですけど、コラボレーションて単語、このごろやたら耳にしませんか? しかも略したり「コラボる」、とか言ってるし…。十年前はほとんど誰も口にしない英単語だったと思うんですけど)。(2003/03/21)

コラムと旅行記へ
TOPページへ

 
 

 
02 ドカ雪の布団?!(3月)