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忍び寄る足音 (12月)


先週末、井の頭公園に行ってきた。今までミュージシャンや似顔絵描き、大道芸など路上パフォーマンスのメッカだったこの公園だが、それも今月末で一旦終了、事前の許可が必要になるそうだ。
これまではある意味「何でもあり」だったのが、来年からは東京都が行う審査に合格しなければならず、そしてまた、登録料なども発生するという。公の場所である以上文句は言えない筋のものではあるが、自由な表現の場がまたひとつ、失われていくのを感じる。
思えば数年前までは表参道や原宿界隈でも、週末になるとさまざまな出店が道に並んでいたものだ。オリジナルのアクセサリーもあれば、イラストも、手作りの帽子もあった。それが同潤会アパートが取り壊され、表参道ヒルズが建ったころから取締りが厳しくなり、今ではほとんど出店を見かけない。
「品物を並べたりするとね、警告じゃないんですよ、もういきなり引っ張っていかれちゃう」
と、井の頭で出会った若いイラストレーターの男性はぼやいていた。管理は少しずつ、しかし確実に強まっているのだ。彼は、
「もう外に店を出すのは難しいから、これからは自分のホームページで作品を発表していきます」
と語っていたが、こういう場所での出会いのぬくもりは、言うまでもなくネット上でのやりとりとは感触の異なるものだ。創作者たちの表現活動を御上(おかみ)が次々と規制、管理していく今の状況は、風紀取締りにやっきになっていた徳川時代末期、あるいは満州事変以後の軍部が暴走し始めた時代の日本を思わせる。われわれが拠り所とする「自由な表現」は、この先一体どこに向かっていくのだろう。
(2006/11/30)

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