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毒か珍味か? 謎の山キノコ (11月)


10月の終わり、長野県黒姫の山荘の戸締りをしに行った時のこと。朝食を終えてベランダから外を見ていると、庭先で何やらごそごそと動き回る人影が目に入った。見かけは農家のオバちゃん風で、腰をかがめて何かを採っているようである。
「何だ、人の家の敷地内に無断で」
と思ったが、すぐに、以前読んだ童話作家の岡野薫子さんのエッセイの一節を思い出した。やはり黒姫に山荘を持つ岡野さんによれば、この辺の土地では昔からの「入会権」という考え方が今でも生きていて、山荘が建っていようといまいと、山のものはみんなのものであり、キノコや山菜などは、見つけた人の物という暗黙の了解があるのだという。
そういう土地柄なら仕方ない。そのままやり過ごすことにしたが、それから1時間もしないうちに、2人目の地元のオバちゃんが現れ、またしてもうちの庭をガサガサ歩き回り始めたので、今度は、多少の興味も手伝って、庭に出ると、
「こんにちは、何を採ってらっしゃるんですか?」
と声をかけてみた。すると、CNNのブルーのスタジャンを着た50くらいのオバちゃんは、
「ええ、キノコをね」
と屈託なく答える。このあたりはかなりいろいろなキノコが採れるので、例年わざわざ車で駅の方からやってくるのだという。
そんな話をしているうち、オバちゃんの表情が変わった。
「ああ、ここ、クリタケが」
言われるままに見てみると、玄関のすぐ横の朽木のそばに、なるほど、立派なキノコの一群が……。





「これ、美味しいですよ、茹でて食べたら」
と、彼女は、一応この敷地の住人である私に気を遣って勧めてくれたが、正直、気が進まなかった。何十年もこの山荘に来ているが、敷地の中に生えているキノ コを食べたことはこれまで一度もなかったし、「毒キノコと食用キノコを間違えて食べて死にかけた」なんていう秋の定番ニュースがとっさに頭をよぎったから である。
「いや、ぼくはいいです。せっかく見つけたんですから、どうぞ全部持ってって下さい」
と私。するとオバサンは嬉しそうに、
「そうですか、それじゃあ、遠慮なく」
と、ひと山はあるクリタケを両手でごそっと朽木からもぎ取った。その様子はいかにも満足げで、それを見ているうち、
「やっぱりどんな物だか味見だけはしてみたい」
という少々意地きたない考えが浮かんで来たのであった。そして、いい大人が前言を撤回するのはみっともないと思いつつ、
「……あの、すみません、やっぱり、少しだけもらっていいですか」
とお願いし、かくて私の手元には、ひと握りのクリタケが残されたのであった。だが……。


 


さて、これは本当に食用なのか。手元にはキノコの図鑑などないし、ノートパソコンも持ってきていないからネットで調べることもできない。まあ、もう何十年 もキノコを採っている地元の人の見立てだから間違いはないだろうが、それでも万が一ということがある。食べない方が安全だろうか。……などと半日近く葛藤 してしまった。それというのもキノコというのは、わが愛する特撮ものではかなりいわくつきのアイテムであり、東宝の「マタンゴ」を筆頭に、ほとんどの場合、いかがわしいキノコを食べた人間はキノコのような化け物になるか、狂って死ぬかするのである。幼少期にそんな映画やドラマをやたら見たせいだろうか、今でもキノコというのは、一種独特の恐怖心を呼び起こすアイテムのようだ(他の野草や山菜と違い、日陰の湿った場所にだけ生息し、菌糸で増殖するというのも、何とはなしに不気味である)。



というわけで特別付録・大嶋拓が選ぶ
これがキノコ怪人だ!


 左からマタンゴ(東宝映画)、キノコモルグとナメクジキノコ(仮面ライダー)、キノコルゲ(超人バロム1)
 (C)東宝/石森プロ・さいとうプロ・東映



それでもって、私はそのクリタケをどうしたか? 結論から書いてしまうと、日暮れとともにおなかも空き、冷蔵庫にロクな食材もなかったため、フライパンでよーく焼いて食べましたよ、狂い死に覚悟で。そしたらこれが風味絶佳、美味いのなんのって。しなやかな食感がたまりません。

 こんなことなら、全部もらっておけば…


「やっぱり採れたところで食するのって、基本だよねえ〜」
と、キノコ怪人たちの悪夢などすっかり忘れてゴキゲンの私。




でも、このクリタケ、形のよく似たニガクリタケという毒キノコもあるので、やはり素人判断は危険らしい。実りの秋ではあるが、キノコ狩りは確かな知識を持つ同伴者とお出かけ下さいますように。
(2006/11/01)

※なお、今月のタイトルは、わかる人にはわかると思いますが、『仮面ライダーV3』第43話「敵か味方か?謎のライダーマン」をもじったものです(あんまりうまくいってないけど)

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