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顔のない時代 (8月)


近々短編を撮ることになり、目下そのための準備でバタバタしている。今回の作品には医師が登場するので、白衣を用意しなくてはならない。以前白衣が必要な時は知り合いから借りたりしていたのだが、ネットで調べたら、3,000円程度で売っているようなので、この際だからと購入を決めた。先日無事に品物も届き、あとは撮影を待つばかりである。

それはいいのだが、検索で引っかかった白衣メーカーのサイトを複数見て、「あれ?」と思ったのが、ほとんどのモデルの顔が切られている、あるいはモザイクなどでわからないよう処理されていること。これも肖像権の保護とやらが目的らしいが、いかんせん過剰防衛ではないか。風俗のサイトじゃあるまいし、商品モデルをやっているってことがそれほど本人の人権やプライバシーに影響を与えるのだろうか? どうも最近、あっちもこっちも「顔が写る」ことに敏感になりすぎているように思う(以下は、ネットにおける「顔のない」白衣コレクションです。ごゆっくりご覧下さい)。


 首から上を切っているこのパターンがもっともポピュラー

 続いてモザイクパターン。薄笑いを浮かべ、見るからに怪しい医者

 看護師さんも…。イメクラですか?

 こちらは全面ボカシ。ツインズ医師?

 出た!「肖像権保護のため…」と顔面に書いてます


ところが、同じ白衣でも調理師さん系はこのオープンさ!何故?


タレントプロダクションでいえば某J事務所がその辺異常にうるさく、NHKの大河ドラマの公式サイトにさえ自社タレントの顔写真を一切掲載させないのは有名な話だが、たしかに、インターネットの普及で無限に画像がコピーされてしまうことへの危機感を募らせている人たちは少なくないだろう。タレントの顔はいわば商品そのものであり、いろいろと利権がからむだけに、肖像の流出を危惧するのは理解できなくもない。しかし最近では、一般人にもその現象は波及しているようで、テレビのニュースなどで、事件の関係者がインタビューを受けている場面でその人の顔が映ることは滅多にないし、また容疑者や被害者の写った集合写真などは、その当人以外はほとんどモザイクやぼかしが入れられている。極端な話、「ようやく梅雨明け!夏本番」などといったテロップとともに映る海やプールの情景的な映像であっても、個人の顔や表情がはっきりわかるような撮り方をしているものはかなり少なくなっているように思える。こういうのも、上記の白衣モデルと同じ、いわゆる肖像権および人権に対する横並び的配慮という奴なのだろうか。

たしかに、ネットやテレビなどで不特定多数の人に自分の顔がさらされるというのはいろいろな意味で危険を伴うし、写してほしくない、プライバシーを守りたい、という気持ちはわかる。意外なところで顔が知られてしまい、それが事件やトラブルにつながりかねない、気の抜けない時代になって来ているのはたしかだ(先月の美容外科医の娘の誘拐事件などはいろいろ考えさせられた)。しかし、人間の顔というのは実に雄弁なものであり、その表情を見さえすれば、その場の雰囲気がどうであったとか、その時どんな感情が喚起されたかなどということも、まさに一目瞭然なのである。いうなれば、顔(=表情)は言葉以上にたしかな情報源なのだ。ネット画像やニュース映像から、生きた人間の顔がことごとく切り抜かれてしまう時代というのは、どうにも息苦しく、また不自由に感じてしまうのだが、いかがなものだろう。
(2006/08/01)

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