02 失われた機密書類(2月)


いや〜、目まぐるしい1ヶ月だった。正月なんて、ほんとにあったの?っていうくらい。もちろん、今月のニュースでも報告した「実験室」収録のためなのだが、普段は比較的マイペースな生活をしていて、忙しい生活というのにあまり免疫がないためか、もう大変なドタバタぶりで、そのおかげでつまらないミスをいろいろしでかしてしまった。その代表格が、普通はあまりしない電車での落し物。しかも、「実験室」に関する資料がすべて入った、かなり大事なクリアファイル1冊を、あろうことか役者の顔合わせを翌日に控えた1月7日の夕方に、うっかり横須賀線の中に置き忘れてしまったのである。そのファイルには、戦後の風俗文化の写真資料や、作品に出てくるウニ「単為発生」「人工受精」についての文献など、かなり時間をかけて集めたものが入っていた。しかもその中には、東京大学の三崎臨海実験所に何度も通って、実際にウニの研究に励んでおられる教授の方々から直接レクチャーしていただいた内容を書きとめた大切なメモ類も混じっていたのだ(その日も、実験所で発生実験に必要な器具をお借りした帰りだった)。あわててJRの遺失物係に電話して調べてもらったが、それらしいファイルは届いていないという。翌日に再度電話を入れても結果は同じであった。「実験室」の台本については一応決定稿は書き終えていたが、稽古開始に当たって、実験の詳しい段取りの確認が必要な時期だっただけに、まさにとほほ…な状況であった。


 三崎口にそびえる臨海実験所。百年を超す歴史!


 館内には海洋生物の標本などが所狭しと並ぶ



しかしその一週間後、突然千葉県の君津警察署から、拾得物を預かっている、との葉書が届き、幸運にもファイルは後日私のところに返却されて来た(ただしそれは作品の収録が終わってから。一番必要な時には手元になかったのだ)。それにしても、何故JRはこちらの問い合わせに対して「ない」と返答しつつ、実際には拾得したファイルをそのまま警察署に回していたのか、その辺のところがまったくわからない。そのファイルの中には、私宛の郵便物も入っており、所有者は簡単に特定できるようになっている。もうちょっと利用客へのサービスを考えて欲しいものである。


 送られてきた葉書。拾得物の担当って「会計課」なのね


と、ここまでは大して面白くもない話だが(まあ、この後もあんまり面白くないかも知れないが)、知人にその話をしたところ、意外なリアクションが返ってきた。「こないだ臨海実験所で調べた資料を落として、そのことで君津警察から連絡が来て…」と話したのだが、そうしたら彼はにわかに顔を曇らせ、「そんなヤバイところで調べ物をするからでしょう」と言い、「最近は危ない事故も多いから気をつけた方がいいですよ」などと声をひそめて忠告までしてくる。逆にこっちがぽかんとしてしまった。よく聞き返すと、彼は「臨海実験所」を「臨界実験所」、つまり核関係の実験施設と思いこみ、さらに、「君津警察」を「機密警察」と勘違いしていたようなのである。笑い話のようだが、耳で聞くとたしかに取り違えても無理はない。また、映像製作をする人間の中には、反核反原発の立場で作品を手がける者もいるから、大真面目な忠告だったわけである。
ここ数年、「声に出して読みたい日本語」などというのがブームだが、声に出しただけじゃわからない日本語というのも、実際はかなりあるということだ。ちなみに、私は小学生のころ、「皆既日食」を「怪奇日食」(文字どおり何ともおっかない日食)、「東名高速」を「透明高速」(全面ガラス張りの高速? 透明怪獣ネロンガというのがいたためか)だと思いこんでいた。そういう言葉の思い違いというのは誰しも、ひとつやふたつ覚えがあるのではないだろうか。さらに言うなら、「肉体疲労時の栄養補給に…」、というフレーズをCFで聞くたび、ガリガリに痩せた「肉体疲労児」を思い浮かべるのは、おそらく私一人ではないだろう。
(2005/02/01)


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