09 専業のよさもある(9月)


といっても、別に専業主婦のことを言ってるわけではありません。今われわれが手にする日常的な機器やなんかのことです。
たとえば、携帯電話。十年くらい前には、電話そのものだけでもクラッチバッグくらいの大きさだったのが、あれよあれよという間に小さく薄くカッコよくなって、時計、カレンダー機能は言うまでもなく、メールが打てる、サイトが見られる、数年前からカメラがついて、静止画ばかりか動画も撮れる、さらに最近ではテレビや映画が見られる?音楽が聴ける?電子マネー決済もできる??と、携帯の進化はとどまるところを知りません。
携帯に限らず、たとえば普通のデジタルカメラでも動画が撮れるし、反対に動画を撮るDVカメラにもたいていは静止画撮影機能がついています。ひとつの機械がひとつの機能だけ持つ「専業」の時代はもう過去のものなのでしょうか。
小学校のころに読んだ星新一のショートショートに、「万能スパイ用品」というのがあります。そこには、カメラの形をしていながら、ラジオ、無線機、聴音器、望遠鏡、そして時限爆弾の機能まで備えたすぐれものの新兵器が登場し、任務に赴く秘密諜報部員が上司からその兵器を手渡されます。しかし、いろいろと機能を欲ばり過ぎたため、肝心のカメラはつけ忘れていたことがわかり、上司の「腕時計型カメラ」を借りることになる、というオチがつくのですが、現在の電子機器の進化は、もはや昔のSFを追い越す勢いといえそうです。何しろ現実にはカメラにカメラの機能を付け忘れるなんていう手ぬかりはありませんから。

しかし、その一方で問題点もあります。たとえば携帯のカメラ部分のみが故障した場合。通話機能には問題がなくても、修理に出すか買い換えるかしなくてはなりません(今の時代、携帯を修理に出す人がどれだけいるのかわかりませんが。ほとんどは機種変更でしょうか)。ビデオカメラの、スチール撮影機能のみがおかしくなって修理に出す場合も同様です。たったひとつの機能の不具合であっても、機械全体を一時的に手放さなくてはいけないのです。スチールカメラとビデオカメラを、あるいはテレビとビデオを一台で兼用する、はたまたプリンタ、FAX、スキャナー、コピーの4つの機能を一台でまかなう。そういった複合商品は現在かなりの数ありますが、便利さの一方、トラブルに際してはロスが多いように思います。

そういった、専業から兼業への動きは、たとえば町の商店街なんかを見ても加速していて、コンビニやスーパーに押されて、個人商店はどんどん姿を消しています。さっきからカメラにこだわるようですが、昔ながらの写真店なんかもどんどん消滅し、今ではスーパーの一角に設けられたDPEコーナーで、バイトの女の子が写真をプリントをしてたりします。彼女たちはただのバイトなので、写真の仕上がりやカメラの機構のことを尋ねても、ほとんど答えられません。電池交換さえおぼつかない始末です。昔は町の写真店の親父というのがいて、かなり物知り顔でいろいろ教えてくれたものです。他の商店にしても、たとえば酒屋さんには酒屋さんの、八百屋さんには八百屋さんの知恵とかノウハウがあり、そこから客は情報を仕入れ、店主は客とコミュニケーションを計っていたと思うのですが、スーパーにしろ、コンビニにしろ、店員はレジでバーコードを読み取るだけ、客は金を払って品物を受け取り、そそくさと店を立ち去るだけです。
「兼業化」の推進によって、ひとつの機械で複数の用が足りる、また一箇所で買い物が済ませられる、など、かなり便利に、効率的になってきたのは疑いようもありません。しかしその代償として、「写真を撮る」機械としてのカメラのかけがえのなさ、また、ただお酒だけを責任もって扱っている商店のプライド、みたいなものが失われてしまったのは淋しいことに思います。

いろんな機能、いろんな商品、それもいいでしょう。携帯で撮る写真も、あれでないと出せないよさはあるのかも知れません。でも、ただひとつの機能しか持っていないものの「けなげな美しさ」というのも、きっとあると思うのです。現代はとかくマルチを求められ、単一機能の商品は、一部マニアのための高級嗜好品(カメラだとライカ、時計ならロレックスみたいなもんでしょうか)以外は、生き残るのが難しいように感じます。それは人間においても例外ではないようで、ひとつのことにしか長じていない不器用な人種は、どうにも生きにくくなっているのを感じたりするのです。


 檜原村で見つけた看板。地域活性化の第一歩?


付記 最近ネタが暗いんじゃない?と思われる方、私も同感です。2ヶ月続きでぼやきモード入っててホントすみません。何か、書き始めるとそういう方に引っ張られちゃうんですよ。「昔は…」とか言ってる時点でもうダメですよね。実は私、細木数子(最近この人視聴率女王なの?)的に言うと8〜10月は大殺界でして、9月はすべての動きが止まる「停止」。毎年ホント心身ともに絶不調になります。秋が深まるころは復活すると思うので、どうぞご容赦のほどを。
(でも谷亮子は金獲ったしなあ。細木って結構当たらないような気も…)
(2004/09/01)


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