03 通れば天国!(4月)

4月も半ばを過ぎて、ようやく杉花粉も峠を越したようですが、最近はホントに花粉症(すなわちアレルギー性鼻炎)の人が増えましたよね。2〜4月に街に繰り出せば、マスクに顔を包んだ人たちのオンパレード。あの光景を見ているだけで息苦しくなるのは私だけでしょうか(このごろはSARSのこともあって、ますますマスクは外出時の必須アイテムになるのかも知れませんが)。
などと言ってる私も、実は重度のアレルギー性鼻炎で、まあ、幼少期から慢性副鼻腔炎とか鼻中隔湾曲症とか診断されていて鼻には問題が多かったのですが、成人を過ぎてから、春よりも秋の花粉(ブタクサなど)に過剰に反応するようになり、9月から年末くらいまで、猛烈な鼻水に苦しめられるのが通例でした。

「でした」、と書いたのは、去年の秋はかなり様子が変わったからで、例年ならかんでもかんでも止まらない、まさに蛇口の壊れた水道のような鼻水が今年は一向に出ず、代わりにかなり頑固な鼻づまりが起こってきて、普通に呼吸するのもままならない慢性酸欠状態に陥ってしまったのです。症状が本格化したのは10月の末、「39-19」の仕上げをしていたころです。鼻の変調は毎年のことなので、ああ、来たか、市販のスプレーと飲み薬で何とかしのぐか、と、ここ数年使っていた薬を使い始めたのですが、一向に鼻は通ってきません。鼻で呼吸できないというのは本当に苦しいもので、頭はぼおっとしてきちんと物が考えられなくなるし、夜も息が苦しくて何度も目が覚めるし。でもまあ、原因は季節的なものなので、年を越せば絶対に治るはずだと、まさに息を殺して待っていたのですが、1月に入っても鼻はつまったまま、一向に通る兆しもありません。もちろんこの間指をくわえて静観していたわけではなく、さまざまな民間療法(乾布まさつ、鼻うがい、ツボ刺激)やブリーズライトなどの鼻孔拡張テープ、空気清浄器や吸入器なども購入して試してみたのですが、まったく効果なし。しまいには物の匂いまではっきりわからなくなってきてしまったのです。

このままでは日常生活にも支障が出る、というわけで、1月中旬以降、本格的な治療に乗り出しました。しかしこれからがまた長かった!! まさにこの3ヶ月は、ひたすら鼻づまりとの戦いの日々でした。これまで一切そのことを書かなかったのは、言葉にするのもおぞましく、腹立たしかったからです。まず初めに訪れたのは近所のアレルギー外来のある内科クリニック。何故素直に耳鼻科に行かなかったかといえば、過去に耳鼻科で鼻をいじられたり長い金属の管みたいなものを突っ込まれたりすると、鼻が過剰に反応してその日の夜に発熱したりすることがままあったからです。そこでそういう器具のなさそうなところということでアレルギー外来にしたのですが、そこでは抗アレルギーの注射を打ってくれ、また数種類の内服薬とスプレーをくれたものの、2週間飲んでもほとんど効き目なし。たしかにスプレーを使った時は数時間鼻が通りますが、それは鼻粘膜の血管を、なかば強制的に収縮させる作用があるからで、時間が経てば元の木阿弥、とても治癒に向かっているとは言えませんでした。


 空気清浄器まで買ったのに…   この手のスプレーがないと安眠もままならない哀しさ



次に訪ねたのが、やはり近所でやっている某整体道場。経絡の流れを整えて万病を治すという、きわめて東洋的な治療法で、西洋的治療が効かないなら東洋でという発想だったのですが、こちらもさっぱり駄目。しかも治療が1回1万円! ちょっとサギ? という言葉が喉まで出かかりました。
3番目に訪ねたのは、某医大病院付属の東洋医学研究所。こちらは東洋といっても漢方薬主体で治療するとの触れ込みでしたが、診察に当たった医師がすでにかなり重症の花粉症で、しきりに鼻をすすりつつ「いやあ、鼻はなかなかねえ」などと消極的なことをいうので、あ、これも駄目かな? と嫌な予感がしましたが、案の定…、でした。医者自身が自分の花粉症をきちんと治さないってのは、許しがたい怠慢だと思うのですが…。
4番目は(もう書くのもいやになってきた)以前「火星のわが家」の取材でお世話になった某大学病院の耳鼻咽喉科。でも若い研修医の言うことがいちいちピントはずれで、薬の選択もはずれまくり。5番目はインターネットで調べた耳鼻科専門病院で、ここでやっと、抜本的な治療の方向性が見えてきたのでした。
ここの専門医によりますと、鼻アレルギーの3大症状はご存知「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」で、この言葉の順番にシリアスになっていくというのです。すなわち、鼻づまりが最も症状の進行した状態で、したがって一番治りにくい。飲み薬ではほとんど効果が期待できないとはっきり言われました。じゃあどうするんですか、と聞けば、肥大した鼻腔内部の粘膜を切除する手術が最も有効であるとのこと。でも、全身麻酔が必要なため、入院までしなくちゃいけないというのを聞いて青ざめました。たかだか(といっちゃなんですが)鼻づまりで入院? 手術?

それから、ここの病院で、実に7年ぶりに血液検査をしてもらったところ、意外な事実が判明しました。それは、何とブタクサによるアレルギーではなかったということです。じゃあ何かと言えばハウスダスト、すなわちほこりやダニの死骸です。実際、日本人のアレルギーの90%はこれが原因だそうで、じゃあどうして秋に症状が出るかといえば、夏は高温多湿で一番ダニが繁殖しやすく、それを吸い込んだ結果が秋に現れるとのこと。いやはや、ショックでした。7年前の検査では、たしかにブタクサで陽性反応が出ていたのですが。アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)も、時間とともに変化するもののようです。それにしても、何故、突然ここまで症状がひどくなったのか? そこで思い当たったのが、去年の春に引越しをしたことでした。それまではベッドを使っていたのですが、現在のところに移ってからは、スペースの関係でパンチカーペットに直接布団を敷いて寝ていたのです。考えてみれば、これってまさにダニの温床ですよね。あわててベッドを購入して、布団も、晴れた日には必ず干すようにしてみたら、何となく症状が軽くなってきたような感じが…。
とはいえ、まだ完治したわけではなく、現在も抗アレルギーのスプレーと血管収縮スプレーの2種類は日に2、3回使用しています。しかしながら、長い冬の終わりとともに、出口なしと思われた鼻づまりとの戦いにも、ようやく休戦の兆しが見えてきた今日このごろです。

ここまでで話を終えると、ただの経過報告になってしまうのですが、実は、今回の件で私が最も考えさせられたのは、人間の体の構造の不思議さについてです。私はもともとあまり丈夫な方ではなく、神経も軟弱(格好よくいえば繊細)なせいか、心配ごとや気になることがあると、胃腸はすぐトラブルを起こすし、また夜眠れなくなったり、眠っても異常に早く目覚めるという、実に厄介な体質なのです。ところが、きわめて不思議なことに、鼻づまりの症状が起きてからというもの、胃腸の具合はきわめて良好で、普段なら、あとで胸やけするから絶対に食べない揚げ物やジャンクフードなどもバリバリ食べていましたし、夜の寝つきもよく、息苦しくて目が覚めることはありましたが、鼻にスプレーを注せばまたすぐ眠りについて、ほぼ毎日熟睡して朝を迎えるといった具合でした。
それが、鼻の調子がひと段落してきた最近では、また胃の具合の雲行きが怪しくなってきていますし、眠りの方も、今ひとつ質がよくありません。これは一体どういうことなのでしょうか。
思うに、病気とか体の不調というのは、実は体に棲む悪い虫というか、テロリストのような存在が関与していて、そいつが鼻の方に行くと鼻が、胃に行くと胃が、トラブルに見舞われるといった仕組みになっているのではないでしょうか。逆に言うなら、胃が攻撃されている間は鼻は安全だし、鼻がやられている時には胃や眠りの方は心配しなくていいことになります。
まあ、はなはだ非科学的なイメージではあるのですが、私の体に関する限り、今までのところ同時多発テロというのは起こっていないので、そういう仮想が成り立つわけです。昔のひとが「一病息災」などと言ったのも、ややこれと似た発想で、「ひとつ病気の種を持っているくらいがちょうどよい、それ以外のところは健康でいられるのだから」という考え方ではないでしょうか。たしかに、人間すべての部分が順調なんてことはあり得ないわけで、ある程度聞き分けのいいテロリストであれば、体の中で共存させるのも悪くないのかも知れません。あとは、そのテロリストが増えないことを祈るばかりですが…。

なお、今月のタイトルは、野坂昭如が昔歌っていた「通せば天国」という曲名をもじったものです。「通すの通さないのどっちなの?」なんていうヘンな歌詞だったけど、やっぱりエッチするの、しないの、みたいな意味だったのでしょうか。誰か覚えてる人いたら教えて下さい。
(2003/04/22)

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