タクラマ談話室 第2回

祝、ゆうばりファンタ入選!
スペシャルロングトーク


門脇匡彦 (長男工房 主宰)

 
 監督:門脇匡彦
 出演:北村直哉
     中村哲人
     加藤  唯
     朝倉文雄
     石橋蓮司

門脇匡彦 (かどわきまさひこ)
1973年広島県に生まれ、鳥取県米子市で育つ。
明治大学文学部在学中に映画サークルで8ミリ映画を製作。
98年、知人のクリエイターたちと「長男工房」を設立。
2000年、映画製作に専念することを決意し、ニューシネマワークショップに入校。
実習作品として製作した「覗く男」(01年)が、第1回サンタマニア映画祭に入選。
03年、下北沢シュワッチ!への参加作品として「ELECTRICS」を製作・監督。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2004オフシアター部門の招待作品となる。





大嶋 ええ、まずはゆうばりファンタの入選おめでとうございます。

門脇 あ。ありがとうございます。

大嶋 門脇くんとは今から3年ちょっと前にNCW(ニューシネマワークショップ)で知り合ったんですけど、私は実習作品の「覗く男」よりも、そのあとにあなたが手がけたムービーズハイ3(NCWの実習作品をまとめて上映する催し)の予告編のセンスにしびれまして。

門脇 あ、アンオフィシャルバージョンの方ですよね。

大嶋 そうそう、「ウルトラマン」のタイトルバックを彷彿とさせる奴。あれのインパクトがすごくってさあ。何しろ元祖ウルトラ世代なもので、やたら血が騒いじゃって。

門脇 ちなみに私はリアルタイムの記憶はタロウからです。

大嶋 あー、年齢的に言うとそうだよね。ま、とにかくあの編集センスというか、こだわりに魅かれまして、ちょうど1年前に、「39−19」という私の作品の予告編をお願いしたのがお付き合いの始まりなわけです。それで、渋谷のツタヤの6階にあった、回りは若い女の子ばっかのオシャレなカフェで打ち合わせをして…

門脇 あー、あそこもうないですねえ。つぶれました。

大嶋 そうなの? 何てサイクルが早いんだ。都会の速度にはついてけない。まあ、とにかくあの日は、すごく運命的な日で、予告編の打ち合わせで会ってたのに、何故かその足で秋葉原に直行して、パソコンのパーツ買って、組み立ててもらったという。あの時以来、門脇くんはうちのPCの相談役という感じで、正直どれだけ助けられたか知れません。

門脇 いえいえ。そうか、あれからもう1年になるんですねえ。

大嶋 早いよねえ。

門脇 いや、でも、考えようによっては、もっと昔のような気も…

大嶋 それはやっぱ、あのあと「ELECTRICS」で悪夢の5ヶ月間を過ごしたからじゃないですか。

門脇 かも知れませんねえ。

大嶋 あのころから「ELECTRICS」の企画は進行してたの?

門脇 いえいえ、まだです。2月からだから。

大嶋 そうなんだ。そもそもあの作品はどうやって生まれたんですか。

門脇 NCWで知り合いだった川田亮さんが「下北沢シュワッチ!」っていうイベントの映像部門のディレクターで、作品の企画を募集してるっていうのを聞いて、それで、実際に下北に行って街を歩いてみたら、送電線が太くて、しかも低かったんですよ。それが印象に残ってて、そっからだんだん発想していったというか…。

大嶋 じゃあ実際のフィールドワークから生まれた作品なんだ。私なんかは、下北っていうのは後付けで、最初からこういう話をネタとして持ってたんだと思ってた。

門脇 そうじゃないんですよ。

大嶋 とっても月並みな質問ですけど、小さいころから映画には関心があったんですか?

門脇 環境的なことが大きいと思うんですけど、鳥取に住んでたころ、近所の酒屋さんの上が映画館だったんですね。

大嶋 酒屋の上が映画館? ちょっとイメージわかないですが。

門脇 うちの向かいの梅原くん(誰?)がそこの酒屋の親戚で、タダ券がいくらでも手に入りまして。それで、入り浸っていろいろ見てました。

大嶋 そのころは、主にどういう作品を。

門脇 当時ジャッキー・チェンがブームで、ジャッキーとゴジラの2本立てとか。あとは、「グーニーズ」とか「グレムリン」とか。邦画だと「南極物語」とか「ドン松五郎」とか。

大嶋 何かかなりかたよってるけど、いわゆるメジャー作品ですね。

門脇 インディペンデント作品をやってる劇場は米子にはなかったですからね。あと、これも小学校時代なんですが、何故か私の母が、テレビのヒッチコック劇場を熱心に見せてくれまして。放送は夜の12時近かったんですけど、私が寝ててもその時間になると母が起こすんです。「見なさい」と。

大嶋 え、それも珍しいなあ。教育的な配慮で?

門脇 じゃあないでしょうか。今思うと、あれの影響は大きいかも知れません。

大嶋 やっぱ情操教育は思春期以前が大事だっていうからねえ。でも、ヒッチコック劇場ってのもすごい。起承転結とか伏線の張り方とかオチのつけ方とかは、かなり勉強になると思うけど。実際に映像製作に関わったっていうのはそれからだいぶ先ですか?

門脇 たしか、高校時代ですね。映画研究会の部室に入り浸って、麻雀とかやってたんですが、その流れで、スタッフやったりしてたような…。

大嶋 部員ではなかったの?

門脇 そうですね。でも、まあ、何となく手伝ったり…。

大嶋 モチベーション思い切り低いですねえ。今のあなたと全然シンクロしません。その当時はどんなものを作ってたんですか。

門脇 そのころ「Mr.マリック」が流行ってたんで、そのパロディみたいな「Mr.トジック」とか…

大嶋 トジック?

門脇 あ、トリックとマジックを合わせたんです。

大嶋 なるほど(苦笑)。それ聞いただけで、もう何となくどんな作品か目に浮かぶような…

門脇 当時、ほんとまったく何も考えてませんでしたからねえ。


 これが「Mr.トジック」。何作も作ったというのがすごい


大嶋 大学時代は?

門脇 役者やりたい人なんかと自分たちでサークルを作ったりしてましたけど、その時も監督やってはいないし、流れにまかせてただけっていうか、あまり意志はなかったですねえ。

大嶋 どうも、予想以上にぬるい話で、どんどんすっ飛ばしたくなりますが、じゃあ、大学出たあとは普通に就職を?

門脇 そうですね。自分の家も父が勤め人なので、まあ、当たり前の人生のルートに乗ったというか。

大嶋 今から5、6年前だと、フリーターなんてのも、かなり増えてきてたでしょ?

門脇 あ、そういうのは、はじめから考えませんでしたね。

大嶋 じゃあ、そこで一回映画からは離れるんだ。仕事は、どういう方面に?

門脇 システムエンジニアです。

大嶋 え? 大学は文学部だよね。

門脇 ええ、でもこれからの時代は喰いっぱぐれないかなあと思って。

大嶋 なるほどねえ。じゃあ、その時に情報処理のことなんかはかなり勉強してるんだ。

門脇 まあ、そういうことですかね。

大嶋 会社には何年くらい籍を置いてたんですか。

門脇 結局3年ですか。

大嶋 うわー、会社は元取れてないねえ。勉強させただけで、給料払い損じゃない?

門脇 そうですねえ。

大嶋 どうして辞めちゃったの? 喰いっぱぐれないのに。

門脇 何か、このまま生きてても仕方ないなあ、みたいに思っちゃって。ちょっと、身近かな人の不幸なんかもあったりしたもので。人間て、明日死ぬかも知れないし、生きてる以上、自分にしかできない人生を生きるべきだって思って、じゃあ自分に何ができるだろうって考えた時に、みんなと一緒にいてみんなを楽しませること、が自分に合ってると思ったんですね。そうやって発想していくと、映画が、目的のためのツールとしては一番合ってるんじゃないかなあと…。

大嶋 なるほど。ずいぶん真面目に考えたんですねえ。たしかに、映画はたくさんの人間と作って、たくさんの人間に見てもらうものですもんね。ちなみに、「長男工房」っていうクリエイター集団を立ち上げたのもこのころですよね。

門脇 そうですね、まだサラリーマンやってたころですけど、一緒に「Mr.トジック」を作った奴とか、音楽とか美術方面とか、一芸に秀でた連中を集めまして。今は一応10人以上になってます。

大嶋 ロゴがすごくカッコいいんですけど、これは、長男しか入れないとか。

門脇 いえいえ、そんなことはないです。長男ていうのは、「家」っていうもののしがらみがあって、なかなか自分の思うとおり人生進めないじゃないですか。それと同じように、自分たち中途半端なクリエイターも、ホントはもっとこんなものが作りたいって思っても、いろんな制約があって作れない。その辺のジレンマに共通性があるんじゃないかと思いまして。

大嶋 なるほどねえ。でも、私より10歳も若い門脇くんの口から、「家」とか「長男」とか言われると…。私も長男ですけど、そういうのほとんど意識してないで生きてましたから。

門脇 いや、東京近郊とそれ以外とじゃあ、かなり認識が違うんだと思いますよ。


 とってもナイスな長男工房のC・I。


大嶋 それで、その「長男工房」の最終目的は? やっぱり映画製作ですか。

門脇 映画はもちろんですけど、映画に限らず、面白いもの、たくさんの人が見てくれて面白いと思ってくれるものを送り出したいっていうのが一番ですね。音楽でも、アートでも、演劇でも…。

大嶋 いろんなジャンルをフォローできるアーティスト集団て感じですかね。そういう意味じゃあ、映画とか映像って、それこそ音楽も文学もアートも芝居も、ありとあらゆる分野が関わってくるわけだから、映画を作ることが「長男工房」全体のプロモーションにもなるわけですよね。

門脇 まさしくそういうことです。

大嶋 さて、そういう集団も立ち上げて、いよいよ本腰を入れて映画製作の道へ、ってことで、2000年の秋からNCWに通うわけですね。このころはもう会社を辞めてて?

門脇 そうですね、辞めて、失業保険をもらってたころです。

大嶋 門脇くんのいたクラスは私が担当だったので、武藤(起一)さんや露木(栄司)さんとシナリオの選考をしたんですが、あなたの「覗く男」は企画書なんかもすごく緻密に出来てて…。覗く時のアイテムなんかがイラストでついていて、かなり戦略的というか。

門脇 ああいうイラストも、「長男工房」のメンバーが書いてるんですよ。ストーリーについては、たしかにセレクションを意識して作った話というのはありますね。NCWの過去の作品であまりなかったもののがいいんじゃないかという…。でも、自分にとっても「覗く」っていう行為は興味のあることだったので。


 「覗く男」(2001)。ヒッチコックを思わせる巧みな結末


大嶋 映画製作そのものが、ファインダーを「のぞく」っていう行為なわけだしね。まあ最近はDVなんかだと液晶モニターが一般化して、ちょっとのぞくという感じではなくなってきたけど。だからこのごろの作品は後ろめたさが乏しいのかな、とも思ったりして。

門脇 ある種人間の本能だと思うんですよ。隠されれば見たくなるっていうのは。

大嶋 チラリズムの世界だよね。パンツそのものではなくパンチラのが欲情するという(笑)。でも、そういう風に発想すると、「覗く男」にも、もうちょっとお色気描写があってもよかったのに、っていうのはあるんだよね。多分シナリオ講評の時にも言ったと思うんだけど。

門脇 たしかに、女の人の着替えとかのぞくのって、その時は楽しいんだろうけど、何か後味が悪いんですよ。あと、画としてのインパクトが強すぎて、そっちに流れが引っ張られちゃうような気がして。

大嶋 なるほど。裸とかラブシーンとか出てくると、そこでストーリーが止まっちゃうってのはあるよね。それはわかったから、先行けよ、と突っ込みたくなる(笑)。でも、作家の嗜好ってのは絶対あって、たとえば私なんかは女性の入浴シーンが多いと言われるんです。こないだ人からそう指摘されて、改めて数えてみたら本当に多い。そういうのは無意識にやってるわけで、そういう意味では、門脇くんの作品は、「ELECTRICS」を見てもお色気どころか、まともに女の子すら出てこないし、何か、お姉ちゃんが出てきて色っぽいことをするっていうのは、門脇ワールドにそぐわないのかなと。

門脇 いやあ、どうなんでしょうね。でも、映画の中でキレイな女性を見たいっていう欲求ってありますか?

大嶋 うーん、改めてそう問われると…(苦笑)。「覗く男」に話を戻しますけど、NCWの実習作品としてこれを撮って、無事に完成して、ムービーズ・ハイ3での上映、サンタマニア映画祭なんかでの上映もあって、初の16ミリ作品としてはかなり好調なスタートを切れたと思うんですが。

門脇 そうですね、いろんな人の目に触れたことで、思いがけない感想が聞けたり…。スタッフとの出会いもありましたし。

大嶋 「覗く男」と一緒にムビハイ3で上映された「ヨモギダ」の月形潤くんとは「ELECTRICS」で組んでるんだよね。

門脇 そうですね。カメラをやってもらってます。

大嶋 それでようやく「ELECTRICS」の話に戻ってくるんですけど、「下北沢の送電線の中を5つの電力が駆け抜ける」っていう奇抜な話でして、この5人てのは、どう見ても○○戦隊とかを彷彿とさせるよねえ。

門脇 まあ、そうですねえ。


 世代的にも戦隊ものには思い入れが深いとか…


大嶋 でも、火力、水力、風力、原子力はわかるとして、石炭て、火力の燃料だろ! と突っ込みたくなったりするんですが(笑)。まあ、それはともかく、この作品、最初から実写とCGの合成を考えてたんですか?

門脇 いや、もともとは送電線のセットを組んで、オール実写で撮りたかったんです。でも、セットをまともに組むとン百万かかるって言われて挫折しまして。

大嶋 CG作品は今回が初めてですか?

門脇 以前実験的にクロマキー合成をやってみたことはあったんですが、うまく抜けなくて…。でも今回はCGを使うしかない状況だったんで、ネットでいろいろ調べて、あと、知り合いの紹介でCGの専門の方に入っていただきました。

大嶋 最近のCG映画って、3Dゲームの画面見てるみたいで、どうも質感が好きになれないんだけど、「ELECTRICS」はぬくもりのあるCGって感じですよね。まあ、人物は実写だからなんだろうけど、背景のCGとのマッチングが「TRON」みたいで、懐かしい感じというか。アナログなものを残してるところが個人的に好感持てました。

門脇 ありがとうございます。

大嶋 でも、ほぼ全カットCG合成ってのもものすごいですよね。実作業時間は?

門脇 撮影が終わってから2ヶ月かかってます。その間はCG担当の方が私の家に泊まりこみで…。

大嶋 泊まりで2ヶ月ですか(呆然)。

門脇 はい。CG担当の方も本当によく耐えてくださいました。作業分担は私が合成抜きをしてる横で彼がCGを作ってるっていう状態で。

大嶋 初期の藤子不二雄状態ですね(笑)。合成カットのレンダリング(計算)でかなり時間がかかったってことですか。

門脇 いえいえ、レンダリングはレンダリング専門のPCに任せて、作業は作業で進めてて…。そうじゃないととても間に合わないです。

大嶋 そうなんだ。PCは何台くらい使ってたんですか。

門脇 私が4台、彼が3台の計7台ですね。

大嶋 システムエンジニア時代の知識が役に立ってますねえ。

門脇 たしかに、LAN組んだりしますから、専門の知識がないとできないですよね。そういう意味じゃあ、30歳の自分じゃないとできない作品をやってるっていう自負はありました。

大嶋 ある種単調な作業の積み上げだと思うんですけど、2ヶ月間…、いやになって来ませんでした?

門脇 いや、そういうことはないです。寝ずに2晩とかやってましたけど、眠いのは耐えられます。

大嶋 根性があって羨ましい。

門脇 あ、でも、一回ハードディスクが壊れて、回復に500万円かかるとか言われて、その時はさすがにいやになりましたね。途方に暮れました。

大嶋 それは、どうしたの?

門脇 まあ、何とか回復させたんですけど、そのあとも不安定で…。だからまめにバックアップ取るようにしましたね。民生の安いハードディスクはいつ壊れてもおかしくないんで、ほんと怖いです。

大嶋 先に仕上げの話を聞いてしまいましたが、撮影も大変だったんですよね。

門脇 そうですね。グリーンバックがうまく抜けなくて撮り直しになったり。よくテレビや映画のメイキングで合成やってるとことか出てきますけど、見た目ほど簡単じゃないんですよ。アングルとかも制限されてしまうので、役者さんも自由に動けなくて大変だったと思います。でも実にねばりずよく付き合ってくれました。ホント、感謝してます。


 撮影難航を物語る当時のプレス


大嶋 電線の中の疾走シーンは、実際に走ってるんですか?

門脇 その場の足踏みだとばれるので、ルームランナーを使ったりとか…

大嶋 音楽とかCGの効果もあるんだろうけど、何か見ててハイになりますよね。基本的に撮影が先で、CGはあとですよね。

門脇 あ、でも、2割くらいはCGが先で、その背景に合わせて人物を撮るってのもやってますね。サイズの問題とかあって。

大嶋 なるほど。役者さんは背景も何もないところで演技してたんですよねえ。何となく演劇っぽいなあって感じがしましたが。

門脇 背景がないとね、どうしてもその場を成立させるためにボルテージをあげてもらわないとっていうのがあって…。


 この迫力!大嶋作品では絶対望めないグルーヴ感


大嶋 キャストの若い人たちはどうやって決めたんですか?

門脇 火力は「長男工房」の人間で、あとの3人はオーディションです。

大嶋 最近の戦隊ものを意識したか、みんな結構イケメン風ですよね。そんな若い人たちの中で異彩を放つのが石橋蓮司さんですけど、いぶし銀の魅力というか、いい味だしてますよねえ。

門脇 もうホント、石橋さんに出ていただけたっていうのが。

大嶋 大杉漣さんとか寺島進さんみたいに、メジャーだけど自主にも顔を出すっていう人とは違いますからね、インパクトありますよ。最近はジョージアのCMで米倉、矢田、サトエリの3人娘と共演して露出度高いし。

門脇 ジョージアはこの作品に出ていただいたあとなんですけどね。

大嶋 出演交渉はすんなりいったんですか。「石橋さんにお願いしたいんですけどどうすればいいでしょう」みたいな相談を3月くらいに門脇くんから受けて、事務所を調べたりした記憶が…。

門脇 ああ、その節は大変お世話になりました。アドバイスどおりに企画書とシナリオと自分のプロフィールを送って…、最初はマネージャーさんとのやりとりだったんですけど、自主のCG作品ていうことでご本人が興味を持たれたみたいで、あとは、トントンと。

大嶋 それはよかった。かなり重厚な、カンロクのある演技をされてますけど、あれは演出で?

門脇 いえ、ああして欲しいこうして欲しいってのは言わなかったんですが、もうばっちりでした。冒頭から若い奴になめられてるんだけど、言う時には言うよってキャラクターで。

大嶋 黒のウエットスーツも決まってますよねえ。石橋の「石」と石炭の「石」もいい具合のマッチングで。欲を言えば、ラストカットは石橋さんのアップで終わらせて欲しかった(笑)。

門脇 ああ、なるほど。


 重厚感漂う石橋蓮司氏の熱演。必見!


大嶋 「覗く男」「ELECTRICS」ときて、次の展開が気になるところですが。

門脇 3月に下北沢のadd Cafeで上映会があって、そこで流す作品を撮ろうと思ってるんですが。

大嶋主 もう2月だけど、間に合うの?

門脇 どうなんですかねえ。一応90秒で90カットの超短編を考えてるんですが。

大嶋 実験的ですねえ。

門脇 どこまで無駄をそぎ落とせるか、いかに必要なカットだけで作品を構築できるかっていう、自分にとってのひとつの試みなんですけど。

大嶋 門脇くんの場合は、多くの人に楽しんでもらえる、エンタテインメントを志向してるということなんだけど、そうなると、インディペンデントにこだわるっていうよりは、メジャーに進みたいっていう感じですか。

門脇 そうですね、今のまま自主でちまちま作っていくのは限界があるし、予算が増えて、規模が大きくなればなるほど、やりたいものがやれるというか、面白いと思ってもらえるキャパは拡がると思うんですよ。

大嶋 そうかあ。なるほどね。それが映画の本来の姿かも知れませんね。私の場合、メンタルな、微妙な話が多いので、いろんな人が関われば関わるほど、自分のやりたいこととずれてくるというか。そういったフラストレーションは今の企画なんかでもいろいろと感じてるところで、規模を大きくすることが作品にとって幸せとは思えないんですよね。

門脇 ああ…(考える風)。

大嶋 個人のこだわりが最優先するっていう意味では、やっぱり自分は監督じゃなく作家だと思うわけですが、映画にはそれなりに人とかお金が必要になってくるので、その辺が実に難しいところだと思うんですよ。たとえば門脇くんの場合、もし1億円あったら、今回の「ELECTRICS」でも違ったアプローチをしました?

門脇 1億円あったらですか? うーん、ちょっと実感ないですけど、そうですね、まずセットは組みますね。役者さんの人選も違ったものになるだろうし、今回照明をあまり凝れなかったので、その辺もきっちりやりたいし、カメラも、35ミリで撮ると思います。

大嶋 なるほど。私の場合は日常生活密着ものがほとんどなので、セットなんてとんでもない、役者はなるべく無名か素人がいいし、照明も当てないでいい、カメラも、生活の中に違和感なく入りこむには小さい方がいい、って感じですから。すでにあるものを切り取るっていう意味じゃあ、ドキュメンタリー志向なんだろうね。

門脇 自分は、日常生活を扱ったものでも、それをもう一度再構築するっていう方法を採ると思います。

大嶋 それは、普通のアパートのシーンでも、アパートを借りてロケするんじゃなくて、アパートのセットを組むっていうことだよね。うーん、でも、本来の映画ってのは、そういうものなのかも知れない。すべてコントロールして、現実とは別の時間と空間を創り出すっていう…。セットからロケに移行した時代と、映画の衰退期は無縁じゃないような気もするよね。

門脇 でも、これだけ考え方が対照的なのに、大嶋さんも私も、お互いに「それはおかしい」とか「それは違う」っていう風にならないで、「ああ、それもわかる」っていう感じになるのは、それだけの年月生きてきたからなんでしょうねえ(しみじみ)。

大嶋 いや、あなたの言ってることはすごく理解できるから。まあ、たとえばさ、客を選ぶ嫌なラーメン屋とかあるじゃない。「オレの味がわかんない奴は来なくていい!」みたいな。そういう傲慢な態度は問題あるけど、それでもその店がつぶれないでやってるとすると、何かやはり、それなりの美味しさみたいなものはあるんだろうし、いろんなお店があっていいと思うんですよ。いま吉野家から牛丼が消えるってみんな大騒ぎしてるけど、ああいう、どこででも同じ味が楽しめるっていうチェーン系の飲食店も大事だし。作り手にも、いろんなスタンスがあっていいと思うんだよね。



下北を駆けるイケメン・ヒーローズの勇姿が、夕張でも!(上映は2月20日 18:30から行われました)



門脇くんは、すごく大人で、なおかつ真面目だなあ、というのが今回長時間話してみての率直な感想です。話を終えて改めて、自分のこれまでのいい加減な創作態度や、なりゆきで生きてきた軟弱な半生を顧みてしまいました。何より、「自分はこの道で生きていこう」と自発的に決断したっていうのがすごいです。そういう「ハレ」の瞬間もなく、惰性でだらだらやってると、節のない竹みたいなもので、いつまでたっても強くなれませんよね。ほんと、遅ればせながら、映画をやっていくとはどういうことなのかについて、しみじみ考えさせられました。
(2004/02/02)


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