![]() ついに完成しました「実験室」。予約受付も始まっていよいよリリースを待つばかり。それを記念して、ヒロイン・営子役で奮闘した以倉いずみさんを迎え、フォト・セッションを展開するかたわら、収録の舞台裏などをたっぷり語っていただきました。5月6日からやられるお芝居の話も興味津々! ☆撮り下ろしスペシャル≫「或ル人妻ノ告白」
館主 というわけで、久々登場の以倉いずみさんです。 以倉 どうぞよろしくお願いします。 館主 以倉さんは、何とこのタクラマ館OPEN直後の、初の撮り下ろし企画のモデルさんだったんですよね。あれから早いもので2年ちょっとが過ぎてしまいましたが…。 以倉 もうそんなに経つんですねえ。 館主 あの時は鎌倉での撮影で、まだ知り合ったばかりということで結構緊張されてたようでしたが、今回はどうでした? 以倉 ええ、2回目ってこともあったんでしょうけど、前よりはだいぶ、リラックスしてやれました。「実験室」での役の再現てこともあったからでしょうか。 ![]() ![]() 館主 出来上がった写真を見ての印象は? テーマは堕ちていく人妻の告白(苦笑)ってことでしたが。 以倉 恥ずかしいですねえ。やってる時の恥ずかしさもありましたけど、それ以上に、出来上がったのを見るのは、…ちょっと困りますね。特に時間が経ってから見ると。でも、思ったよりはやれてたというか。もっとブザマなのかと思ってたんですが。 館主 その辺はさすが役者さんですよ。普段の以倉さんの表情やキャラとはかなり違ってますもんね。 以倉 あ、でも私、「求めてる系」がうまいって、結構言われます。 館主 何ですか、そりゃ。 以倉 肉体的な空気っていうのか、露骨にエロエロしてないところが、逆に男を誘ってるように見えるそうで…。 館主 そうなのかなあ。まあ、今回の「実験室」でも、増沢望さん演じる流行作家を、自分から誘惑する人妻役ですもんね。今回の営子っていう役は、どうでした? 以倉 最初に台本を読ませていただいた時から、とっても魅力的な女性だなあって。終戦間もない、男も女も、いろんなことに揺れている時代の中にあって、夫のことも信頼しているんだけれど、新しい価値観を持った別の男のひとに魅かれていく気持ちはとてもわかるんですよね。 館主 「岩」のような夫・兼近と、「波」のような深瀬の間で、以倉さん演じる営子はまさに「海草」のように翻弄されるんですけど、ご自身に置き換えると、どうですか? 以倉 うーん。この作品の営子は、どうみても不利な条件ですよね。深瀬にも奥さんがいるし、自分は二号にさえしてもらえない。そういうのをわかってて、深瀬の世話をしてあげたいとか夫に対して言うんですから。おそらく、営子にとって深瀬というのは人生の中でそれまで出会ったことのないタイプで、それだけに、強烈に魅かれたんでしょうね。そういう気持ちもわからなくはないけど、そこまでの献身ていうのは、今の自分にはちょっと想像できないですね。 館主 じゃあ以倉さん自身は、深瀬派っていうよりは兼近派ですか? 以倉 そうですね。でも、ある程度年の離れた夫婦ってそうかも知れないんだけど、この営子もすごく兼近に可愛がられて、守られていて、だけど、そういうのは言ってみれば空気みたいな愛情で、自分がいかに愛されているか気がつかないと思うんですね。その辺は営子の幼さというか。そのうち戦争が終わって、いろんなものの価値観が変わって、自分も外で働き出す。それで、いっぱしの職業婦人になったつもりになって、夫以外の世界を覗いてみたら、深瀬みたいな男に出会ってしまって…。その辺のプロセスはすごくわかるんです。 ![]() 館主 営子は深瀬との過ちを兼近に告白し、そして深瀬からうつされた病気(性病?)を兼近にうつしておきながら、その上「あなたは私に嫉妬しない!」と怒るわけですよ。聞きようによっては大変な悪妻なんですが、その辺の心理は…。 以倉 営子は兼近の大きな愛情に気がついていないんでしょうね。だから、無意識のうちに兼近を挑発するようなことを言って、彼の感情が爆発するところを見たいんじゃないでしょうか。そうすることで、彼の愛情を確かめたいという。 館主 なるほど。浮気というのは夫に振り向いてもらうため、嫉妬させるためっていう部分もどっかにあるんでしょうか。でも、作品を見てると、兼近役の加藤忠可さんは結構感情を爆発させてたような…。 以倉 そうですね。「あれだけ怒るんなら、充分嫉妬してるじゃん」て(笑)。 ACT2 終戦直後、日本男性の愛情表現は… 館主 その辺は、演出の不手際だったかも知れないですね。兼近は「岩」なんだから、もっと最後までストイックな方がよかったかも知れない。あと、兼近の描き方でいうともうひとつ、あの時代の作品としてはどうなんだろうって悩んでいるのが、ラスト間際の描写です。ずぶ濡れで戻ってきた営子に対し、兼近が妙に献身的に体をふいてやる場面があるじゃないですか。あそこは、原作にはない、私の補作なんですけど、ああいうのも、当時の男としてはいささか軟弱なんじゃないかと、今さらながら首をかしげてるんですが。この作品の設定と同じ昭和23年の作品で小津安二郎監督の「風の中の牝鶏」なんかを見てみると、奥さんの不貞を知った夫が、奥さんを怒鳴るわ、どつくわ、階段から突き落とすわ、そのあげく、手を貸すこともなく「おい、大丈夫か」ですからね。見方によっては大変な暴君ぶりで…。 以倉 あそこまでやられると、私なんかはちょっとついていけないかも…。 館主 「風の中の〜」は、時代状況も、妻の不貞というテーマもある種共通していたので、加藤さんと以倉さんにはビデオを見てもらってそのあと少し意見交換もしたんですよね。加藤さんは、「あの亭主も、心では妻を許してるんですよ。でも、行動というか態度はああなってしまう」と言ってましたが。 以倉 そうですね。ああいう愛情の示し方もあると思います。 館主 あれがあの時代の男性の標準的な愛情表現だとすると、兼近のリベラルな態度は、やっぱりいささか現代的なのかなと。 以倉 でも、中盤くらいの営子のセリフに「あなたと結婚したばかりのころは、ちょっとのことでへこたれて、熱を出してばかりいて…」なんていうのがありますよね。多分そういう時、兼近は年若い営子を一生懸命看病してくれたと思うんですよ。ラストのあの兼近の行動は、そんな昔への回帰現象というか…。だから営子も、そうやって兼近に身を委ねることで、以前の兼近の優しさを思い出して、愛情を再確認しているんじゃないでしょうか。そういう意味では、とても自然に演じられました。 ![]() 館主 なるほど、役者さんていうのは、こっちが気がつかないところの感情まで、模索しながら演じてるんですねえ。そうやって考えると、あの夫婦の仲は、まだ修復可能なんでしょうか。 以倉 いや、完全に元には戻らないと思います。 館主 え、でも、愛情を再確認したわけですよね。 以倉 そうなんですけど、でも、深瀬を知る前の営子とは、もう違うわけですから。兼近に対しても、気持ちが離れてしまったわけではないので、見た目の生活は元どおりに営んでいくのかも知れませんけど、すっかり同じというわけにはいかないですよね。 館主 うーん。そこら辺は共演者の中でも意見が分かれてまして。まだ夢見がちな(?)松井茜ちゃんや鈴木啓文くんなんかは「やり直せる」って言っていて、ある程度人生経験を積んできた加藤さんは以倉さんと同じで、「難しいでしょう」みたいな口調でしたよね。このあたり、ご覧になる方がどう思われるか興味あるところです。 以倉 そうですね。未婚者と既婚者でもだいぶ受け取り方は違うでしょうし。 ACT3 楽屋裏のことなど 館主 稽古が一週間弱、そして1日半の収録というハードスケジュールでしたけど、やっぱり長いセリフでは苦労されましたか? 以倉 いえ、覚えること自体は、電車の中でもお風呂の中でも、とにかくいろんな時間を使って早いうちから始めていたので。むしろ、相手役の出方がわからないままセリフを覚えるという経験が自分としては初めてだったので、そういうやりにくさはありました。こんなにも体になじまないものかと。やっぱりお芝居は、相手とやり合うから面白いんですよね。 館主 なるほど、今回は初共演の方ばかりでしたからね。自分のカンパニーでやるのとはまるで違いますよね。 以倉 その分、最初の読み合わせがすごく新鮮でしたね。不安もありましたけど…。 館主 共演者の方は、どうでした? 以倉 みなさんすごく素敵な方で、読み合わせの日の最初の飲み会からみんなすっかり仲良しになって、稽古の後には1日おきくらいで飲みに行ってました。モロッコ料理も食べに行ったし…。 館主 いいなあ。私は最初の飲み会とあと一回くらいしか加われませんでしたが、最初から、ああ、いいチームだなと思ってました。年齢も、それまでの経歴も見事にバラバラだったけど、みんな役にもぴったりはまってたし。収録が終わってもうかなり経ちますが、最近でも行き来はあるんですか? 以倉 鈴木くんとはこの前高円寺で会いましたし、先々週は、茜ちゃんと一緒に増沢さん出演の「ルル」(@世田谷パブリックシアター)を観に行ってきました。その後は楽屋をお訪ねして…。 館主 あ、「ルル」、私も行きましたよ。楽日の前々日だったかな。 以倉 その次の日に、私たち観に行ったんです。そしたら増沢さんが、「昨日大嶋さんも来てくれたよ」って。 館主 増沢さんのアルヴァ、カッコよかったですよね、スマートで。やさぐれた深瀬役とは全然違ってて。 以倉 そうですね。印象が若いんでびっくりしました。古谷一行さんの息子の役ですもんね。 館主 お坊ちゃんで、自分で金を稼いだことのない役。でも甘ったれで文弱っていうところは少し深瀬とつながるのかも知れません。ご自分のHPでも、「なさけなカッコいい系」を目指したいと書かれてましたが(笑)。増沢さんとは不倫関係の役でしたけど、稽古中に何か役作りは? 以倉 いえ、特に何も。初めて登場する、2人して雨の中を帰ってくるところでは、出番待ちの時に、微妙なアイコンを交わしたりしてましたけど…。 館主 たしかに微妙だなあ(苦笑)。ホールに入ってからの、本番収録時のハプニングとか、大変だったことなんかありますか? ![]() 以倉 2日目の昼間は、結構細かくカメラをとめながらの収録だったんですけど、あれは正直きつかったですね。お芝居というのは流れでやっているので、映画とかテレビみたいに、ここからここまで、よーいスタート、みたいにやられると、セリフに感情がついてこないというか…。それで、かまずにすむようなところでもかんでしまったりして。 館主 ああ、あれはこっちもきつかった。あんなに回したりとめたりするつもりはなかったんだけど、一回NGが出ると、それがどんどん伝播しちゃうんですよね。それで、結局つぎはぎだらけになってしまって。やっぱり、演劇として作ってきたものを映画的に撮るのは違うよなあ、って痛切に感じました。だから、2日目夜の最終収録は、何があっても止めずに回そう、ということにしたんです。編集していく中でも、どこをどう使うべきかということで、いろいろ思考錯誤はあったんですが、完成版に残った映像の8割はやはりその最終収録のものです。流れに乗ってやっている方が、役者さんも気持ちが入ってるし、細かいセリフに間違いはあったとしても、全体のあがりはいいんですよね。 以倉 そうですね、芝居は生ものですから。でも私、その最終収録で、外出用の着物から浴衣に早替えをする時、あわてて舞台のそででスッテーンと転んで、腰を思い切り打ちました。 ![]() 館主 え、そんなことがあったんだ。全然気がつかなかった。 以倉 それまでは、私の衣装とメイクが変わる時はカメラをとめていただいてたじゃないですか。だから余裕を持って着替えられたんですけど、最終は、ぶっ通しだったんで。 館主 ああ、そうか。それはひどい目に遭いましたね。じゃあ、後半は痛みをこらえつつ? 以倉 いえ、自分でも、その時は痛みは感じなかったんです。収録が終わって、打ち上げで飲んでる時も平気で、でも次の朝起きようとしたら…。 館主 起きられなかった? 以倉 まあ、何とか起きたんですけど、ほとんど動けなくて。すぐ整体に行きました。1週間くらい痛みが引かなかったですね。 館主 そういうことがあったとは。でも、その時には涼しい顔で芝居をやり切るんだから、役者さんの集中力っていうのは大変なもんですね。 ACT4 濃厚なシーンも? ![]() 以倉 ええ、5月の6〜8日、西荻窪のがざびぃで「蜘蛛」というお芝居をやります。不思議な因縁というか、「実験室」とまったく同じ、昭和23年の話で、私がやる「女」という役も営子と同じ、34、5歳なんです。 館主 それは奇妙な偶然ですね。しかも、このチラシを見ると、営子と同じような着物を着てたりする…。 以倉 自前なもので(苦笑)。でも、舞台では着物は着ないんです。 館主 あ、そうなんですか。折角なので内容と役柄の方も、ネタばれにならない範囲で教えて下さい。 以倉 ある罪を犯して刑務所に服役していた「女」が、出所してからある「男」と知り合いまして、その男と幸せな結婚生活を営むんです。しかし、実は男には女の知らない心の闇があって…、という、不幸→幸福→不幸という流れに翻弄される女の役だと思っていただければ。イギリスで実際にあったペーター・キュルテン事件をもとに書かれたお話しです。 館主 ペーター・キュルテン? うーん。あまり突っ込むとお芝居を見る楽しみがなくなるのでこの辺にしときましょうか。では、ずばり見どころは? 以倉 私にしては、男性とのラブラブな場面が多いのではないかと。こんなに愛し愛されたら幸せだろうなあ、と観て下さる方にも思ってもらえるよう、精いっぱいやらせていただきます。 館主 じゃあ、結構濃密なシーンも? 以倉 いえいえ、可愛いもんです。あくまで、私にしてはっていうことで。 館主 「実験室」の営子は2人の男性の間で揺れ動いてましたけど、今回はその「男」だけにぞっこんなわけですね。 以倉 ええ。もう一身に愛情を捧げて。でも、客観的に見ると「馬鹿な女だなあ」って感じなんですけど。 館主 そりゃまたどうして。 以倉 だって、普通結婚する相手のことって、もう少し調べるじゃないですか。そうすればもっと早く気がつくはずだと思うんですよね、男の…。 館主 はい、そこまで! 何に気がつくかは、直接劇場でお確かめいただくということで。 以倉 そうですね。時代背景や元になった事件、男女の関係など、いろんな要素が絡みあった面白いお芝居だと思うので、是非ご覧いただければと思います。 館主 私も観に行きます。では、稽古の方がんばって下さい。今日はお忙しいところありがとうございました。 ※公演は好評のうちに終了しました ![]() 以倉いずみという女優さんを知ったのは、今から2年前の春。ちょうどタクラマ館OPENのころだったので、このサイトの歴史とともに彼女があるという印象です。おととしの鎌倉フォトセッションの時はまだ二十代だった彼女も今では次のステップにあがり、ますます女っぷりに磨きがかかっているというところでしょうか。少なくとも、今回の「実験室」の営子役は、2年前の彼女には難しかったように思います。そう考えると、年を重ねるのも悪いことだけではないのでしょう。以倉さんにはこれからも女として、人間として、ますます丸み、いや円熟味を増していってほしいものです。でも、真夜中の「チーズもち」と焼酎はほどほどにね。 (2005/04/30) アーカイブへ トップページへ |