01 健康で生きるとは?(1月)





秋くらいからずっと腰が痛い。胃腸の具合もよくないし、睡眠の質も悪い。このごろは白髪もどんどん増えているし、四十代に入って、一気に老化が襲ってきた感じである。
「まあ、仕方ないか、もう人生折り返しだしなあ」
と諦めたフリをしてみても、やはり体の不具合というのは気になるものだ。ある人のいわく、「三十代までは、ほっておいても若さがあるから元気でいられる。しかしそれ以降は、元気でいるためには努力が要る」。なるほど、そういうことか。年寄りが若い者をうらやむのは、この「ほっておいても元気でいられる体」が、もはや自分には失われているからなのか、と妙に納得した次第である(でも若者にとってはそれは当然のことなので、彼らはそれをありがたがったりはしない。すべて失ってから気づく。人生とは一回だけだから、それもやむを得ないのだろう)。
まあともかく、これからは健康でいるためには、筋トレとかストレッチとか、何かしら努力をしなくてはいけないらしい。何て面倒くさいんだ! 私は幼少期から外で遊ぶのが大の苦手で、学校で体育の授業がある日はひたすら雨が降るのを祈っていたという筋金入りのアンチ肉体派なのである。そういった文弱路線で実に四十年近く生きてきた私に、一体歴史は何をさせようとしているのか。ネットで検索すれば、健康へのアプローチ法は嫌というほど仕入れられるが、どうも実践への道は遠いのが実情である。

だいたい、昨今の現代人の健康志向ブームはどうかしてるんじゃないだろうか。やれコエンザイムQ10メラトニンローヤルゼリーチタンマイナスイオンアロマテラピーヨガピラティスだとかまびすしく、町に出ても、川べりでウォーキングする親父、太極拳をやる老人、出勤前にスポーツクラブに通うサラリーマン等々、みな何かに取りつかれたように健康増進に余念がない。彼らにとっては、あたかも健康で長生きすることこそが人生の最大目標のように見えるのだが、それって一体どうなの? と疑問を呈するのは私だけなのか。
人間は健康になるために生きているわけではないだろう。たしかに病気もなく健康であればいろいろなことにチャレンジできるから、そういう意味では有意義な人生が送れる可能性は高いかも知れない。しかし、健康であることは、あくまで真の目的達成のための必要条件のひとつに過ぎないのであり、「健康」「長生き」がいかなる人生の目的に寄与したかの方がはるかに重要なはずである。「健康で長生きしました」というのは、人生が終わった時に明白になる、ただの結果でしかない。だから、ただ生きながらえたというだけで、110歳の年寄りがギネスブックか何かに載ったりするのは、いささか理解に苦しむのである。……などと皮肉めいた言い方をしてしまうのは、単に自分がストレッチとかウォーキングとか、そういう健康志向のことをしたくないからかも知れないが。
人間というのは自然体が一番だと思う。健康を考えて、したくもない運動をいやいやするなんていうのは、ちっとも精神の健康には役立たないのではないか。おのれの心のおもむくまま、ヨガやウォーキングを楽しめる人は楽しむがよし、それがいやな人はしないもよし、ということだ。

しかし、よくよく考えてみれば、食べる、飲む、眠るといった基本的な日常の行為も、ある意味で自分の健康を維持するための営みであり、それさえも拒否してしまえば即身仏(自ら食べ物を絶って生きながらミイラになること。仏道修行の究極)への道を一直線、ということになる。さらに言うなら、私は睡眠にはひと一倍気を遣うタチで、寝室の明るさや温度や湿度、さらには周囲の騒音や枕の硬さまでチェックを入れてしまうのだが、それもまた、健康への執着と言えないこともない。人生の目標に定めるかどうかは別にして、やはり健康への志向というのは生物の本能なのかも知れない。関が原の戦いに敗れた石田三成が処刑の直前、喉が渇いたので水が欲しいと言ったが水がない。近くに柿の木があり実がなっていたので、役人はそれを食えと差し出したが、三成は「柿は胆の毒だから」と、食べるのを拒んだという逸話もある。これを見る限り、人間というのは死ぬ直前まで健康には気を遣ってしまうもののようだ。そう考えると、自分も人生あと半分あるわけだから、心を入れ替えてメンテナンスをしなくちゃ、ということになってくるのだが……。
フランスかどっかのことわざに、「一番健康によくないのは生きていることだ」というのがあるらしい。かなり逆説的な言い方だが、これなどまさに生きることと健康の関係を言い当てて妙だという気がする。煩悩多きわれわれ現代人は、あっちの世界にでも行かない限り、真の健康を手に入れることは難しいのだろう。

などと言ってるうちに今年(2005年)も終わりだ。今年の総括を、と思ったが時間がないので省略。とりあえず、2006年1月からしばらく、「タクラマ館」は仮OPEN状態になります。4月以降リニューアルOPENの予定ですが、今後も月刊でいくのかはまだ思案中です。では、どなた様もよいお年を…。
(2005/12/31)



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